向かってくる敵と、僅かでも目を合わせてしまったら――妹の夫であることに、そうでなくても妹と同じように帰りを待つ者がいることに――気付いてしまう。
私はいつも以上に迷いなく、剣を振るった。
迷わないように、と言った方が正しいのかもしれない。
全てが終わり、我々は勝利を収めた。
血に染まった大地をぼんやりと眺めてから、自分の掌に目を遣ると、なぜか震えていた。
「ご苦労さま」
その時、戦場には不似合いな柔らかい声がして、私はそちらを振り返った。
「――陛下!」
身軽な服装でこちらに笑顔を向ける青年は、紛れもなく我らの主君であり、私は慌ててその場にひざまずいた。
「いいからいいから、そういうの。ほら、立ってよ」
促され、恐縮しながらも主君と同じ目線の高さで向かい合った。
穏やかな表情で周りを見渡した国王陛下は、天気の話でもするように、言った。
「初めて君が実戦に出ているところを見たけれど、君の殺し方は汚いね」
「――お目汚しを」
低く呟きながら、私は少し動揺していた。
『汚い』などと言われたのは、初めてだった。
剣技にはそれなりに自信を持っていたし、どこを狙えば少ない出血で相手を仕留められるか、といったことも把握している。
しかし、主君が言いたいのは、そういうことではないのかもしれない、と思った。
何故なら、改めて、殺した者たちの姿を眺めた瞬間――私も同じことを感じたからだ。
『汚い』と。
本当に突然に、そう感じたからだ。
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(5/10)