「援軍など、意味があるのか?」
既にしっかりと地面を踏みしめ、剣の柄に手を掛けていたカズマ殿下が、呟いた。
「用心に越したことはありません」
私も主の傍らに立ち、近づいてくる幾多の黒い影を見据えた。
黒い服で身を固めた十数人の男達は、素早く私たちの四方を取り囲む。
「平和ボケしちまったか?王子様。ろくに供も連れずにのこのこと、こんなとこまでやってくるなんてよ」
「あんたがいくら腕が立つといっても、この人数じゃひとたまりもねえだろ。油断したな」
「俺たちを手なずけたと思い上がってる証拠だな。あの世で後悔しろよ、侵略者が」
下卑た笑みを顔いっぱいに広げた彼らは、思い思いの言葉でこちらを罵り、恫喝した。
おそらく、先王の頃に制圧したこの地域の部族の者だろう。当時は大いに荒れたという話だ。
現国王の代になってからは、反発する者もほとんどいなくなっていたのだが。
眉ひとつ動かさずに彼らの罵声を聞いていたカズマ殿下は、場が静まるのを待ってから、口を開いた。
「平和ボケも油断も、しているつもりはない。だからこそ最強の剣を一振り、供にしてきた」
「はあ!?何言ってやがんだ!?」
「強がりだろ」
「高貴な王子様の考えることは俺たちなんぞにはわかんねえよ、ほっとけ!どうせこいつはここで死ぬんだからよ!」
怒鳴り声と共に、私たちを囲む円がひとまわり小さくなった。代わりに黒い影が密集する。
「殿下、このような時にお戯れはお止めください」
背中合わせに立つ主に、小さく声を掛けた。
「戯れなど、口にしたつもりはないが」
「余計な挑発に使われるのは不本意です」
「冗談の通じない男だ」
「やはりお戯れではございませんか」
主は、口の端だけを上げて、微かに笑った。
「だが嘘は言っていない」
私が何かを答えるより先に、暗い熱を帯びた声が、闇に響いた。
「殺せ――!!!」
それを合図に無数の怒号と剣先が、一斉に迫って来る。
「殿下、半分お任せしてよろしいですか」
「誰に聞いている」
二本の剣を抜く音が、背中越しに重なった。
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