それからも、俺たちは変わらない日々を過ごしている。
女性に道を尋ねられただけで気絶させられて縛られたり、俺の肩にとまった蝶をみすずが殺そうとしたり、――懲りもせず隠し撮り写真を見ては興奮しているみすずには、多少辟易している。
みすずのボディブローは相変わらず強烈だ。そして、縄を解かせるのは相変わらず簡単。
俺は、みすず以外の人間には全く興味がないというのに、それでもみすずは『もっとひとりじめしたい』とわがままを言う。
他人がこんな俺たちの生活を知ったら、眉を潜められるかもしれないし、間違っていると諭されるかもしれない。
それでも、俺とみすずにとっては、これが『幸せ』なのだ。
俺に会いたい一心で狼から人間になった少女の、暴力的で盲目で少し病的な、だけど誰よりまっすぐな想いが――俺をこの上なく『幸せ』にしてくれる。
眉を潜められてもいい。間違っていると言われてもいい。
みすずが俺にくれる痛みも愛も、俺にとっては間違いなんかじゃないのだから。
「みすず、俺が悪かった。許してくれ」
「私以外の人に可愛いって言った。許しません」
「……赤ん坊じゃないか」
「女の子だったもん」
「悪かった。今度から赤ん坊にも触らないから許してくれ」
「許しません」
「せめてこっち向いてくれ。身動きがとれないからみすずの顔も見れない」
「いやです」
「……みすず。俺はみすずが世界で一番可愛いと思ってるよ」
「……」
「みすず」
「……義高さんの、ばかああああーーー!!!!」
「うわっ!殴るか抱き着くか噛み付くかどれかひとつにしてくれ!全部痛い!」
わざわざ家に閉じ込めなくたって、俺はとっくの昔に、みすずの作った檻に囚われてしまっている。
檻は絶対に壊れないし開かない。――そもそも壊す気も開く気も、俺にはない。
そのことに気付かないみすずが、ちょっとしたことで怒ったり不安になったりする姿が、愛おしい。
一生、気付かないまま――わがままに理不尽に、俺を愛し続けてくれればいいと思う。
――やっぱり俺も、まともなんかじゃない。
end
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