■科学者とその作品の会話
「一応理由を聞いてもいいかい?」
「忘れたくはない。けれど痛いのは嫌だ」
「なるほどね。それで私はいつ起こせばいいんだい?」
「貴方がいいと思ったときに」
「ははは」
「何がおかしいんだ」
「君はアンドロイドだというのに期待をしているんだね。計算から導き出した可能性、ではなくて、根拠のない期待、というものを」
「滑稽か」
「いや興味深い。そうだな、そんな君のことだ。きっと素敵な夢が見られるさ」
「そうだろうか」
「私もそう、期待しよう」
「貴方の『期待』は、自然なものなんだな」
「そうだね」
「ひとつ、忠告したい」
「何だい?」
「今後アンドロイドを製作する時は、感情機能を搭載するのは、やめておいた方がいい」
「非常に重みのある忠告だけど、それは今の時点では無理だね」
「そうか」
「うん、無理だね」
「わかった。それなら好きにしたらいい」
「君の未来次第では、考えてみるよ」
「未来、とは」
「『期待』を、しているんだろう?」
「貴方は難しいことばかりを言う。それに、答えにならないことばかりを答える」
「そんなことはないさ。――さあ、もういいかい?」
ひとつ頷いたアンドロイドは、静かに瞳を閉じ、科学者はその日から、『待つこと』を始めた。
弱くて壊れにくい、彼の作品の代わりに。
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