■王宮押し花講座
case1.医師
「どうしました殿下、こんな老いぼれジジイのところまでいらっしゃるとは何の御用ですかな?もしやお妃様にご懐妊の兆候でも?」
「子供はまだいい」
「王族失格かつ独占欲丸出しの今の発言は聞かなかったことにいたしましょうかな。ではどういった御用で?」
「これを永久保存する方法はあるか」
「これは……シロツメクサ、で作った……指輪?ですかな?ははあ、お妃様からの贈り物ですか、うひゃひゃ!」
「余計な詮索は必要ない。枯れないようにする技術は持っていないか」
「無茶をおっしゃる。医者は魔法使いではないんですぞ?それに命には終わりがあるからこそ美しく、」
「黙れ。煩悩ジジイの癖に何が『美しく』だ。わかったもういい、お前に期待した俺が馬鹿だった」
「酷い言い草ですな、陛下に言いつけてしまいますぞ?――それより殿下、永久保存とまではいきませんが、押し花にすれば少しは美しいまま残しておけるのではございませんかな?」
「押し花……」
「ワシにやり方をお尋ねになりませんよう!そんなろまんちっくな技術もワシは学んでおりませんからな!」
case2.女官たち
「押し花、ですか?」
「そうだ。できるだけ上手く作れる奴に頼みたい」
「押し花って上手く作るコツとかあるものなんですの?ただ挟むだけじゃ…」
「さあ?――それにしても殿下、どうして押し花なんて?」
「リン様への贈り物か何かですか?」
「いや……これをできるだけ綺麗なまま保存したいだけだ」
「まあ!これって昨日リン様が必死に作ってらっしゃった指輪ではございませんか!」
「そうなの!?マリカさん」
「ええ!つまり殿下はお二人の愛の結晶を永遠のものになさりたい、というわけですのね!?ロマンチックですわあ!」
「キャー殿下すてき!」
「例え世界が炎に包まれて消えてしまおうとこのシロツメクサに込められたお二人の愛は不滅、」
「世界が炎に包まれたら花も燃えるだろう」
「まあ!なんて夢のないことをおっしゃるんですの、殿下!」
「わかったから、誰か押し花が得意な奴はいないのか」
「あっ、そういえば私の弟が兵士をしているのですが、」
「もちろん知っている。あいつは有望だな」
「ありがとうございます。その弟が、押し花のしおり作りが趣味なのです」
「あのガタイでか」
「ええ。ですから弟にお尋ねになったらよろしいかと」
「わかった。恩に着る」
「きゃああ!私たち、お二人の愛のメモリーの1ページを目撃してしまったわあああ!」
「素敵ですわねええ!みんなに自慢しに行きましょ!」
「そうですね、マリカさん!やっぱりお二人の愛は炎よりも熱く燃え上がって、」
case3.兵士
「殿下!自分に直々に御用と伺い、参上致しました!」
「ああ。お前は押し花作りが趣味らしいな。これを押し花にしてほしい」
「はあ、確かに押し花は菓子作りや裁縫と並んで自分の趣味でありますが……このシロツメクサは一体?」
「何も聞かずこれを押し花にしろ」
「は、はい!失礼致しました!すぐに取り掛かります!では殿下、そのシロツメクサを拝借できますでしょうか?」
「……」
「殿下?」
「待て。やっぱり俺が作る。やり方を教えろ」
「殿下自ら、ですか……?あっ、まさかそれはお妃様が、」
「聞くな。黙ってやり方を教えろ」
「黙って教える!?じ、自分にはそのようなテクニックは……!」
「俺が悪かった。頼む、何も聞かずに教えてくれ」
「で、殿下!自分のような者に『頼む』などと!」
ex.妻
「カズマ様!ゆ、指輪の話、王宮中に広まってるじゃないですか!みんなに話したんですか!?」
「そういうわけではないんだが……」
「二人の愛を永久保存とかわけのわからないことを女官のみなさんが言ってくるんです!一体何を話して……あ、そのしおり……」
「ああ。指に嵌められなくなったことだけが残念だが」
「か、カズマ様……!」
「なかなかよくできているだろう?俺が作った」
「……カズマ様が、押し花を?」
「何だその顔は。失礼だな」
「いえ、その……」
prev / next
(3/11)