俺は、拘束されて不自由な両手を動かし、指先でみすずの手に触れた。
「確かに俺はみすずにとんでもなく愛されてる。だけど、俺の気持ちだって、みすずに負ける気はない」
「……うそ。だって私、」
「信じられないのか?世界で一番大切な恋人の言うことが?」
「……」
不遜な言葉でみすずを黙らせてから、俺は改めて彼女をまっすぐ見上げた。
「俺がみすずを怒らせたら、殴っていい。縛っていい。好きなようにお仕置きしてくれたらいい。何度でも俺に思い知らせてくれ。――だけど、俺を信じないなんて、そんなことは許さない」
仰向けで、縄で手を縛られて、好きな女に馬乗りをされた状態では、全くかっこうがつかないが、このさい構わない。
「俺が石に躓いて転んだら、その石を粉々にしていい。他の女の子に物をもらったら、燃やしていい。そういうことを飽きるくらいに、繰り返していいから。諦めることだけは、しないでくれ。俺を」
「諦める……」
「不安とか嫉妬とか、失いたくない気持ちとか……そんなのと闘いながら俺を愛してくれることを、諦めないでほしい。閉じ込めたら、不安も嫉妬も必要ないし、俺はどこにも行けなくなる。だけど、それは諦めだ」
戸惑うように揺れるみすずから、俺は頑なに目を逸らさない。
そのせいか、ますます困った顔になったみすずがなんだか可愛くて、俺は少しだけ笑った。
「とんでもなく傲慢なことを言ってるって、わかってるよ。不安になってくれって……それでも愛してくれって、言ってるんだから」
それは、普通の恋人同士なら当たり前のことだ。
けれど、『普通』とはとても言えないみすずにも、そうしてほしかった。
不安を乗り越えた分だけ愛は育つ、なんて陳腐なことを言うつもりはない。不安なんて、ない方がいいに決まっている。
「だから、不安にさせた分だけ、俺はみすずを愛したい。諦めないでくれた分だけ、――それ以上に、愛したいんだ」
みすずは、震える唇を、ぎゅっと噛み締めた。
瞳いっぱいに、涙が浮かぶ。
「そんなこと、言われたら……私……」
「『発情する』?」
「ち、違います!――そんなこと言われたら、もう一生、義高さんのこと、離せなくなっちゃう……!」
どん、と身体に衝撃があり、みすずが俺に抱き着いた。
「当たり前だ。そうしてほしくて、言ったんだから」
俺の名前を呼びながら泣きじゃくるみすずの背中を撫でたかったけれど、縛られているせいでできなかった。
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