「……っ、義高さん!」
目を覚ますと、俺はベッドに寝かされていた。
怪我は、きれいに手当てされている。
そして、俺の上で四つん這いになってこちらを見下ろすみすずは、ぼろぼろと涙を零していた。
俺の服に、涙の染みができている。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!私のせいで……!」
「そんなことない、泣くな、みすず」
重く感じる腕を持ち上げ、みすずの涙を拭う。
しかし、みすずはぶんぶんと首を振った。
「やっぱり私、もう絶対に義高さんを家から出しません……!どこにも行かせない……!」
言いながら、みすずは縄を取り出して俺の手首を縛り始める。
「待て、みすず、何で!」
「外に出したら、また義高さんが嫌な目に遭います!今度は死んじゃうかもしれない!死ななくても……きっと、義高さんが傷付くのはは私のせいだから……義高さんは私を嫌いになっちゃう!」
きつく縄を絞められて、手首に痛みが走る。
「そしたら義高さん、どこかに行っちゃう!」
俺が傷付くことをみすずがあんなにも恐れていたわけは――俺を失いたくなかったから。
小さな怪我で死ぬはずはないし、俺に降りかかる災難がいつもみすずのせいなんてことはありえない。
それでもみすずは、恐れているのだ。
どうすれば、この恐れを取り払ってやれるのだろう。
「嫌いになるとかどこかに行くとか、そんなことはしない。信じてくれ、みすず」
真摯に訴えかけるも、みすずの涙は止まらなかった。
「信じられるわけなんかないです!だって私のほうがずっとずっと……義高さんのことを好きなんだから!」
「みすず……」
彼女の揺れる瞳を見上げながら、俺はみすずの気持ちを想像してみた。
そこで、俺も同じだと気付く。
一歩間違えば俺だって、みすずをどこかに閉じ込めようとするかもしれない。
いや、考えていくうちに、むしろそうしなければいけないような気さえしてくる。
だってそれ以外に、好きな相手の全てを手に入れる方法があるだろうか?
――けれど、俺はまともでいなければならない。
こんな危ない生き物に骨抜きにされている時点でまともではないかもしれないが、それでも。
俺自身と、みすずを守るために、だ。
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