瞳を潤ませたお篠を、藤吾郎はきつく抱きしめた。
『ほほー、なかなか愉快な旦那様じゃねえか、ひひっ』
背中から聞こえる薄汚れた声を無視し、藤吾郎はお篠にくちづけをする。
「お篠……」
「藤吾郎、さん……」
そのまま流れるように布団に倒れ込む。
『うおっ、もうやっちまうのか?短気だなおい』
これも無視し、藤吾郎はお篠のやわらかな肌に触れた。
お篠は、唇を噛んで藤吾郎から顔を背ける。
「……っ」
『おおっ?やるじゃねえかてめえ。前の男たちと違って乱暴じゃねえのもいいな。悪くねえぜ、篠がよろこんでる』
もちろん無視して、藤吾郎はお篠の首筋に唇を寄せる。
お篠が身体をかたくした。
「……っ、くっ……」
『おおっ?たったこんだけなのにもう篠は参っちまってるぜ?クソガキのくせにいやらしいねえ。ああ、いやらしいのは篠も同じか』
「やめっ……」
『おいトーゴローよ、篠がもっとって言ってるぜ。あまり焦らしてくれるなよ、なあ?篠』
「兄様……やめて……」
『何だよ、恥ずかしいってのか?なるほどなるほど。いやあ、これはこれで愉しいもんだなあ。たまんねえや、もっとやろうぜ』
着物の帯に手を掛けたところで、藤吾郎は堪らず手を止めた。
「おい、やめろ。萎える」
お篠の身体を反転させ、鬼の形相で背中を見下ろす。
『初夜で萎えるなんて言葉をぶつけるとはひでえ男だ』
「お篠に言ったんじゃない、あんたに言ったんだ」
『それもまたひでえ話だぜ。てめえはこいつがさっきから何を感じてたか、俺の助けなしにわかったか?』
「どういう意味だ、この変態妖怪」
『さっきから篠は何も言わないだろ?良いとも悪いとも。ただ歯を食いしばって顔を歪めてただけだ、俺からは見えねえが、そうだったろう?わかるんだよ。それだけでてめえはこいつがよろこんでると知れたか?』
藤吾郎は思わず黙った。
確かに、この妖怪の言葉によってお篠が嫌がっていないことはわかった。それで多少図に乗ったことは否定できない。
しかし、そういう問題ではないはずだ。
第一、今この状況は全く不本意である。
すると、髭面の兄は、わざとらしくため息をついた。
『まったく、そんな顔をされるとは心外だぜ。むしろ感謝してほしいくらいだね』
「……なんて男だ、この野郎」
頭を抱えて先程の妖怪よりも大きなため息をついてから、藤吾郎はお篠の身体を抱き起こした。
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