「それは、どういう、」
「子は、妾を囲ってその方に産んでいただいてけっこうですから、どうか……」
「妾なんていらない!……いや、そういう問題ではなくて、どういうことか説明してもらえないと、納得はできない」
「説明すれば、藤吾郎さんは離縁したいとおっしゃるでしょう。けれど私は、それでは困るのです。お願い致します、藤吾郎さん」
床に頭を擦りつけるようなかっこうになったお篠に、藤吾郎は困惑した。
「と、とにかく頭を上げて……」
お篠の身体を起こすべく、藤吾郎が彼女の肩を掴むと、弾かれたように顔を上げたお篠が、その両手を振り払った。
「……っ」
お篠はそのまま素早く後退り、壁に背中をぴたりとつけて座り、唇を噛み締めた。
明らかな拒絶に、藤吾郎は少なからず傷ついた。
「離縁されると困るなどと言いながら、俺に触れられるのは嫌なのか」
しかし、お篠は勢いよく首を振った。
「違います!違うんです、けれど……」
涙を浮かべて自分を見つめるお篠に、藤吾郎はこんな状況にも関わらず理性を吹き飛ばされてしまっていた。
床を這ったせいで着物の裾ははだけ、白い太腿が覗いている。
本人が何と言おうと、彼女は自分のところへ嫁に来たのだ。
主人である自分が、彼女を求めることを咎められる者はいない。
第一、彼女は触れられるのが嫌なのかと問えば否定したではないか。嫌なわけではないのなら、こちらが躊躇う理由はひとつもありはしない。
「お篠。俺はずっとお篠が好きだったんだ。おまえのその願いは、聞くことができない」
壁に張り付いているお篠の前で中腰になり、強く引き寄せた。
華奢な背に腕を回すと、お篠は「駄目」と再び首を振る。
片手で彼女の腰を抱き寄せたまま、もう片方の手で着物の衿を開く。
あらわになった肩から、背中に手を滑らせる。
「あっ……駄目です、駄目……」
力ない抵抗は、藤吾郎を煽るだけであった。
なめらかな肌の感触を味わうように、背中に指先を這わせる。
――と。
『駄目だと言ってんだからやめてやれや、このクソガキが』
明らかにお篠のものではない――自分より年かさの男の声がして、藤吾郎は仰天した。
「い、今……声が……」
「えっ!?藤吾郎さん、聞こえ……っ」
思わず手を止め、キョロキョロと室内を見回す。
しかし聞き覚えの全くないその声の主は、どこにも見当たらなかった。
お篠は絶望的な表情で俯いている。
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