「……おい、お嬢」
やけにぴたりとしがみついてくる少女に、思わず顔をしかめる。
「いくら子供とは言ってもな、少しは危機感を持て」
「知っています。男の方は狼なんでしょう?羊のような顔をしていても気を許してはいけないんだと家庭教師が言っていました」
「まさか俺を男と思ってないんじゃないだろうな」
「まさか。だけど私のような子供には、男性の方は何も感じないということも知っていますから」
いや、その認識はどうだろうか。
「世の中には特殊な性癖を持った人間ってのもいてだな」
「けれどトバリは違うでしょう?」
「そりゃあまあ、そうだが……」
確かに今の彼女には何も感じない。
しかし、ふと思う。
仮にこの少女が成長したならば、どうだろう。
実際に成長してどう感じるかはさて置き、見てみたい、と純粋に思った。
他人の『未来』に興味を持ったのは初めてのような気がする。
危なっかしいようで、どこか強かさも持ち合わせているような――わかりやすいようでわかりにくい、不思議な少女。
どんな風に成長し、大人になっていくのか。
楽しみだ、という感覚だろうか、これは。
――だからこそ。
「お嬢がもし不老不死になったとしたら、あんたは永遠に子供のままってことか」
少女の眠りを妨げてしまう気がしたが、半分は独り言のつもりで呟いた。
「そうですね」
少女はまだ起きていた。
「時間が止まってしまうことは少し寂しいですけれど、おじいさまを独りにすることに比べれば……たいしたことではありません」
独りを畏れた少女は、言う。
「おじいさまは私にいつも、他人のために生きるな、って言うんです。他人のための人生ほど、益のないものはないと。――なのに、そのおじいさまは、私のために生きている」
服を掴む指先に、僅かに力が入った。
「だから私も、おじいさまのためだけに生きるんです。そうすればきっと、おあいこですよね……?」
返答に窮しているうちに、少女は小さな寝息をたて始めた。
ため息をついてから、少女の華奢な背中を軽く引き寄せる。
そのぬくもりは、想像よりも心地良く――なんとなく、少女の祖父という人物に、思いを馳せた。
結局、酷い睡魔と闘いながらも、少女が目を覚ますまで、傍を離れることができなかった。
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