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さらに、少女は何かを思いついたらしく、小走りで追い付いてきて、こちらを見上げた。


「私、ペガサスってきっと、伝説のように優しくて綺麗なだけの生き物じゃないと思っているんです。なんとなく、ですけれど。――だから、トバリを助けたペガサスは、ぺちゃんこにもならないで死ぬのは許さないってトバリに言いたかったのかもしれないって、思いました」


意外な話題だった。

少女が旅の間じゅうずっと、ペガサスのことを考えているせいだろうか。


よく飛躍するこの少女の言動は、予測するのが難しい。


「やけにお節介なペガサスだったんだな、そりゃ」

何と答えていいものか迷い、茶化すと、少女は微笑んだ。


しかし、話を逸らす気はないらしい。

「痛みから逃げるな、なんて人間なら誰にも言う権利はないと思います。……私の冒険も、きっと逃げ、ですし」


僅かに俯く少女。

――やはり彼女は、『そのこと』をわかっている。


「だけどペガサスは人間じゃないから。だから、言ってもいいから、そう言いたかったのかもしれないなって」


結論がやけにおおざっぱで、思わず吹き出してしまった。


それを見た少女は、ハッと我に返ったような表情を見せた。

そしてすまなそうに笑う。

「ごめんなさい。生意気でしたね。昔いた家庭教師に、よく嫌な顔をされていました。貴女はたまに、子供のくせに偉そうなことを言うと」


「いや、むしろ、実に子供らしい意見だと思ったんだが」


他意もなく、率直な感想を言うと、何故か少女は嬉しそうに顔を明るくした。

子供だと馬鹿にすれば怒っていたはずだが、不思議なものだ。



「だが、まあ、子供の意見だからといって、無視してしまえと思えるようなものではなかったな」

「どういう意味でしょうか?」

「割と『そうかもしれない』と思った、ってことだ」


理解者ぶった態度も、押し付けがましい言動も、救ってやろうなどと宣い差し出される手も、欝陶しいだけだ。

しかし、少女のそれは、まるで『考察の対象』とでも言うのか、純粋な探究心とでも言うのか――ある意味失礼な話だが、とりあえず、そこに裏はないのだろう。

そのせいか、いつになく素直に少女の言葉を聞いていたように思う。

十も年下の少女の言葉を、だ。


「この歳でぺちゃんこになる、ってのはダメージがでかすぎるが、何か他に手立てはないか考えてみるよ」


口だけになりそうな気もするが、とりあえずそう言ってみる。


すると少女は笑顔で頷いた。

「ええ。こんなにお人好しのトバリに、諦めて生きてほしくはないですから」


眉間に皺が寄る。

「……お嬢、あんたはやたらと俺をお人好し呼ばわりするが、何なんだそれは。全く身に覚えがない」

「こんなところまではるばる着いて来てくださる方なんて、きっとトバリの他にはいません」

「報酬目当てだ、と言ってるはずなんだがな」

「本当にお金目当ての方は『君の力になりたいんだ』なんてとっても優しいことをおっしゃるものですよ?」

「……成る程な。覚えておこう」


少しばかり、情けない気分になった。



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