「雑魚は後でやります」
みすずは、スーツの男にゆっくりと歩み寄った。
「く、来るな、バケモ―――ぐっ!」
みすずが素早く拳を繰り出すと、男は顔を押さえて勢いよく尻餅をついた。
前歯が一本、床に転がる。
「みすず、待て……」
男の前にしゃがみ込むみすずを必死で呼ぶのに、聞こえていないのかわざとなのか、彼女は俺を無視した。
「処刑、っていうんですよね?」
みすずは、小首を傾げてにこりと笑った。
「罪を犯した人間を、力で裁くこと。罪の代償を、命で支払わせること。合ってますか?」
「待て、アンタ、何を……」
「あなたは、これ以上ないくらいの罪を犯した。私の義高さんを傷付けた。刃物も向けた。暴言も浴びせた」
「それは元々アンタが、」
「だったら私に向かってくればいいのに、私の義高さんに手を出した。どんな理由があっても義高さんを傷付けた、それだけでもう、大罪です」
みすずは、男を仰向けにして、組み伏せた。
「噛み殺すのは簡単。だけど、もっともっと、あなたが苦しんでからじゃないと」
そう言いながら、男の顔に爪を立て、ゆっくりと手前に引いた。
男の顔から、血が噴き出す。
「さあ、処刑の時間です」
みすずが静かに宣言した次の瞬間、
「ぐ…あああああああっ!!!!やめ、やめろ、ああああああっっっ!!!!!」
男のものすごい悲鳴と、殴打の音、皮膚が裂ける音――とにかくあらゆる種類の嫌な音が、その場に響き渡った。
男に馬乗りになったみすずが、両腕を動かすたびに、血しぶきが飛び散る。
「やめ……やめてくれ、ああああああっ!!!!!!」
「五月蝿い。舌を引き抜かれたいんですか」
「やめてくれ頼むやめろやめてくれうわあああああああ!!!!!」
みすずは手を緩める気配がない。
「みすず、駄目だ……」
俺は、なんとかみすずを止めようと、必死で地面を這った。
しかし、身体が鉛のように重くて、なかなかみすずの元に行くことができない。
何分そうしていただろうか。
みすずの腕から指先は真っ赤に染まり、顔も返り血にまみれていた。
男はもはや、叫ぶ気力もないほどに虫の息だ。
それを見たみすずは、満足そうに笑った。
「まだ意識はありますよね?」
パチンと頬を打つと、男はうめき声をあげた。
それを確認し、みすずは再び微笑む。
prev / next
(13/20)