二日間、森を探索した。
一日目の夕方、数年前ペガサスに降ろされた川に行き着いた。
当然、何の変哲もないただの川でペガサスなど影も形もない。
噂で聞いた湖と、あの日ペガサスが飛び去って行った方角が一致していたことを確かめ、歩を進めた。
懸念していた野宿だが、少女はとても楽しそうだった。物珍しいことが好きなようだ。
しかし、それは最初だからだろう。
慣れてくれば同時に不満も出てくる。
それまでにペガサスを見つけたいものだが、そんなことは可能だろうか。
かと言って、言いくるめてペガサス探しを諦めさせることはさらに不可能に近い。
さっさと出てこい、と願うしかなかった。
三日目、湖があると噂される周辺までたどり着いたが、既に日が暮れており、探索は翌朝に持ち越すことにした。
「うんと早起きして探しましょう!」
「あまり早いとまだ日が昇っていないぞ」
「暗いうちに起きて朝食を食べておく、というのはどうですか?」
「構わないが、起きられるのか?お嬢」
「私が朝に強いのはご存知でしょう?いつペガサスが現れるかわかりませんから、湖を見つけたら一日中見張っていましょう!」
甘やかされて育った身で、これだけの長旅にも疲れた様子を見せない。
これは、仮に目的を果たしたとして、帰り道にぷつりと糸が切れてしまうかもしれない。気をつけていよう。
毛布にくるまって寝転ぶ少女から少し離れた場所で、火の番をする。
少女に寝ずの番はさすがに任せられず、少女が朝起きてからしばらくの間、仮眠を摂ることにしていた。
その間、少女は沸かした湯を使って身体を拭くなど身支度をしているようだった。見たわけではない。聞いただけだ。
さて明日で終わらせることはできるか、などと考えていると、
「トバリ、トバリ」
囁くような声で、少女に呼ばれた。
振り返り、尋ねる。
「どうした?」
「今夜はやけに寒いです」
「ああ、確かにな」
「トバリ、一緒に寝てくれませんか?」
思わず呆れ顔になる。
「赤ん坊じゃあるまいし。だいたい俺は火の番がある」
「寝転がって番をしていればいいではないですか。私、寒いときはいつもおじいさまとくっついて寝ていたの……お願いします」
めちゃくちゃなことを言う。寝転がっていて眠ってしまったらどうする。
しかし、少女はどうやら少し寝ぼけているようだ。口調が微妙に違う。
人恋しさから甘えたくなっているのかもしれない。なんといっても子供なのだ。
「今晩だけだぞ」
「ありがとうございます」
少女が寝入ってしまうまでは添い寝でもしてやるか、と思い、仕方なく少女の隣に寝転んだ。
少女が分け与えてくれた毛布は温かく、眠気を催しそうな、嫌な予感がした。
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