『特別』――それは彼女を、愛しているから。
一人の女として、愛しているからだ。
だがそれを伝えれば、彼女にとっての私は、ただの人買いと同じだ。
めったに会わない家政婦には『人買いの方が余程ましだ』というようなことを言われていた。
それでも、だ。
自分を守りながら、彼女に触れることができる。
彼女を傷つけずに、愛することができる。
そのための嘘を、壊せない。
彼女を『猫』に繋ぎとめるための、彼女を私に縛り付けるための、赤いリボン。
『解かないで……』
そう願った彼女を、抱きつぶしてしまいたかった。
かわいそうなノワール。
猫ではなくなったら、ここにはいられないと思っている。
生きるために、猫のふりをする。
彼女の命を握って、せめても得られる快楽を享受しているのだ、私は。
薄汚い男たちよりも余程、
『卑怯な主人ですまない』
そう。愛を求めることができなくて、愛を告げることすらできなくて。
見えない檻に、彼女を閉じ込める。
二匹の白い猫たちと、ノワールは何もかもが違う。
頭のおかしいふりをしていれば、『特別』に特別な意味など、ないと思わせることができる。
それでも、特別だと、伝えたい。
――やはり、頭がおかしいのかもしれない。
ただ、彼女が猫に見えないのは確かで、それだけは彼女に知られてはいけないことも、確かだ。
彼女が解いてほしいと願うまでは、赤いリボンは解かない。
『可愛いノワール』
そのままでいてほしい。
だから卑怯な私は今夜も、彼女を抱いて眠る。
「私だけの特別な猫」
必死で猫を装いながら、私の頬を彼女の赤い舌が撫でる。
猫らしくもなく従順に、私の望み通りに。
「おやすみ、ノワール」
罪を夜ごと募らせながら、私は幸せな眠りにつくのだ。
end
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