リクエスト | ナノ


 

『特別』――それは彼女を、愛しているから。


一人の女として、愛しているからだ。



だがそれを伝えれば、彼女にとっての私は、ただの人買いと同じだ。


めったに会わない家政婦には『人買いの方が余程ましだ』というようなことを言われていた。


それでも、だ。



自分を守りながら、彼女に触れることができる。

彼女を傷つけずに、愛することができる。


そのための嘘を、壊せない。



彼女を『猫』に繋ぎとめるための、彼女を私に縛り付けるための、赤いリボン。


『解かないで……』


そう願った彼女を、抱きつぶしてしまいたかった。



かわいそうなノワール。

猫ではなくなったら、ここにはいられないと思っている。

生きるために、猫のふりをする。



彼女の命を握って、せめても得られる快楽を享受しているのだ、私は。


薄汚い男たちよりも余程、


『卑怯な主人ですまない』


そう。愛を求めることができなくて、愛を告げることすらできなくて。

見えない檻に、彼女を閉じ込める。



二匹の白い猫たちと、ノワールは何もかもが違う。


頭のおかしいふりをしていれば、『特別』に特別な意味など、ないと思わせることができる。

それでも、特別だと、伝えたい。



――やはり、頭がおかしいのかもしれない。



ただ、彼女が猫に見えないのは確かで、それだけは彼女に知られてはいけないことも、確かだ。



彼女が解いてほしいと願うまでは、赤いリボンは解かない。


『可愛いノワール』


そのままでいてほしい。



だから卑怯な私は今夜も、彼女を抱いて眠る。



「私だけの特別な猫」


必死で猫を装いながら、私の頬を彼女の赤い舌が撫でる。

猫らしくもなく従順に、私の望み通りに。


「おやすみ、ノワール」



罪を夜ごと募らせながら、私は幸せな眠りにつくのだ。




end




prev / next
(10/11)

bookmark/back/top




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -