「特別って、なんですか?」
不意に、心臓が軋んだような錯覚に陥り、私は口を開いていた。
痛んでいたのは、腕のはずなのに。
「こんな風に私が特別なのは、どうしてですか?」
ご主人様が眉を潜める。
聞いてはいけないと、わかっていたのに。
嘘が、ばれてしまうかもしれないのに。
「私が、他の二匹と違うのは、人間の姿をしているからですか?ご主人様が愛しているのは、人間ではなく猫なのに?」
困惑したように、ご主人様は私の頬に触れた。
「……何が言いたいんだ」
「知りたいんです。どうして私が特別なのか。どうしてこのリボンを、結んでくれたのか」
「きみが何処にも行かないように。そう願ったからだよ」
「他の猫たちは、いいんですか?」
「そんなことはない。だが、猫は自由な生き物だ。縛り付けるつもりはない。ここから逃げて行きたければ、辛いが止めはしない」
「だったらどうして、私はだめなんですか?」
純粋な、疑問だった。
本当にただ、知りたかった。
聞けば、胸の軋みが、少しでもおさまる気がした。
「それは……」
ご主人様は、言い淀む。初めてのことだった。
そして、
「解いてほしいのか?」
ご主人様の中指が、リボンと肌の間に滑り込む。
「解いたら……どうなるのですか?」
「きみは猫ではなくなるかもしれない」
それは、どういう意味だろう。
ただ、そうなってしまえば、私はご主人様の傍にいる資格を、失うのだろうということは、わかる。
「解かないで……」
懇願するように呟くと、ご主人様は私を抱き寄せた。
「卑怯な主人で、すまない」
後ろ頭を優しく撫でるご主人様の、言葉の意味がわからなかった。
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