リクエスト | ナノ


 

ご主人様に愛されたければ、猫のふりをしているしかない。

自分は人間だと、自分を見てほしいと、そんなことを訴えてはいけない。


欲しがっているのは、私自身なのに。



現実的に考えれば、人間の姿をした猫など、狂言にすらならないと誰でもわかる。


それでも、ご主人様は、信じているのだ。


私が人間の姿をしているだけで、人間ではないと。

彼の愛する、猫だと。


心を病んでいる――確かにそうなのかもしれない。


それを癒したいだとか、治したいだとか、そんなことは思わない。

あるのは、あさましい欲求だけだ。



頭も心も、ぐしゃぐしゃになってしまいそう。

こんな思いに苛まれる毎日が、死ぬまで続くのだろうか。




ふと思い立って、二匹の猫たちに会いにいった。


与えられた部屋で寛いでいる白い猫たちのそばに、膝を付く。


「あなたたちは……ご主人様に愛されたい?」


手を伸ばすと、片方の猫が小さく鳴いて、私の腕を引っ掻いた。

痛みに思わず、顔を歪める。


『お前とは違う』

優美な姿の猫たちは、そう言っているような気がした。


愛されている。

それを受け取っている。


それで満足しているのだ、彼らは。



滲んできた血を拭う気にもなれず、溜め息を落とした時、ご主人様が私を呼ぶ声がした。



書斎に入ると、机についていたご主人様は腕の傷を見咎めた。


「血が出ている」

「だいじょうぶ、です」


手招きをされて傍に行くと、軽々と抱えあげた私を、ご主人様は机に座らせる。

椅子に腰掛けた彼を向かい合わせで見下ろすかっこうだ。



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(6/11)

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