ご主人様に愛されたければ、猫のふりをしているしかない。
自分は人間だと、自分を見てほしいと、そんなことを訴えてはいけない。
欲しがっているのは、私自身なのに。
現実的に考えれば、人間の姿をした猫など、狂言にすらならないと誰でもわかる。
それでも、ご主人様は、信じているのだ。
私が人間の姿をしているだけで、人間ではないと。
彼の愛する、猫だと。
心を病んでいる――確かにそうなのかもしれない。
それを癒したいだとか、治したいだとか、そんなことは思わない。
あるのは、あさましい欲求だけだ。
頭も心も、ぐしゃぐしゃになってしまいそう。
こんな思いに苛まれる毎日が、死ぬまで続くのだろうか。
ふと思い立って、二匹の猫たちに会いにいった。
与えられた部屋で寛いでいる白い猫たちのそばに、膝を付く。
「あなたたちは……ご主人様に愛されたい?」
手を伸ばすと、片方の猫が小さく鳴いて、私の腕を引っ掻いた。
痛みに思わず、顔を歪める。
『お前とは違う』
優美な姿の猫たちは、そう言っているような気がした。
愛されている。
それを受け取っている。
それで満足しているのだ、彼らは。
滲んできた血を拭う気にもなれず、溜め息を落とした時、ご主人様が私を呼ぶ声がした。
書斎に入ると、机についていたご主人様は腕の傷を見咎めた。
「血が出ている」
「だいじょうぶ、です」
手招きをされて傍に行くと、軽々と抱えあげた私を、ご主人様は机に座らせる。
椅子に腰掛けた彼を向かい合わせで見下ろすかっこうだ。
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