『彼の倍額出そう』
静かな声が、会場に響き渡った。
目を見開いて声の主を見る。
『猫にしか興味がない』、という――ダークブラウンの髪の――
『少女の姿をした猫、なんて、他にいないだろう』
至極真面目な顔で、彼は言った。
まさか、信じているのだろうか。
本当に、どこかおかしいのでは、と思わず疑う。
しかし、彼の瞳は揺らがなかった。
『他の方は――もういらっしゃいませんか?』
進行役は戸惑いながらも、ハンマーを叩いた。
こんなにも簡単に、想像もしない値で、私は買われた。
それも、『猫』として。
『おいで』
ダークブラウンの彼が――ご主人様が、深い碧色の瞳で私を捉える。
手招きをされ、私は怖ず怖ずと足を前に踏み出した。
『ユアン・クロフォード』と。
落札を証明する書類に、ご主人様はサインをした。
****
森の奥の屋敷で私たちを迎えたのは、二匹の白い猫だった。
『きみと同じ、私の猫だ』
二匹を軽く撫でた後、ご主人様は私をふわりと抱き上げた。
『同じ、ではないか。きみは特別だからね』
『あの……?』
『ああ、言葉を喋れるのか』
微かに口の端を上げ、ご主人様は私の髪を撫でた。
『はい、あの、ご主人様……私、自分で、』
『ご主人様、か。そうだな、きみは飼い猫だ。その呼び方は悪くない』
『自分で歩けますから……』
それには答えずに、ご主人様は私を浴室に連れて行き、頭から足の先まで洗った。
されるがままに、恥ずかしいという感情すら麻痺して、まるで本当に猫になってしまったのではないかと思った。
それが終わるとご主人様は私の髪を乾かして、帰りに高級そうな店で買っていた黒いワンピースを着せた。
私が着ていたものよりも、よほど綺麗だ。肩の出るノースリーブで膝丈のスカートにはレースがついている。
歩くとふわりと広がった。
そして、ご主人様は私を寝室に連れて行き、ソファに座らせた。
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