連れて行かれた先は、オークション会場のようだった。
しかし、そこに出品されていたのは宝石でも人間でもない。
『金持ちってのは酔狂だよな。たかが猫を馬鹿みたいな値で手に入ようとするんだから』
そう、街では見たこともないくらいに美しい猫たち。
『あの、まさか、ここで私を……』
『そうだ、さっき主催者とは話をつけてきた。面白い、と了承してくれたよ』
結局、私が売られるという事実は動かないらしい。
『さっきのところで売られるより、裕福なとこに行けるさ』
それはおそらく、良いことなのだろう。
『あそこにいるダークブラウンの髪の男、あいつがこの会場で一等金持ちだが……あれは望み薄だな。とびきり酔狂な男だ』
舞台の袖から、男が囁く。
後方の席に無表情で腰掛けているのがその人物のようだった。若くて整った容姿をしている。
『人間嫌いで猫にしか興味がないらしい。使用人も極力主人の目に留まらないよう働いてんだと』
その斜め前の奴は女好きで有名だからお前は奴に買われることになるんじゃないか、と男は言った。中年の紳士だった。
『最後にちょっとした余興をご用意致しました。と言っても、もちろんこれも、紛れもなくオークションでございます』
その時、進行役が声を張り上げ、私は仲買人の男に背中を強く押された。
『……っ!』
十数人の男たちの前に踊り出てしまう。
微かなざわめきが起こった。
『一見ただの少女ですが、彼女の正体はなんと、猫なんだそうです。皆様、たまには趣向を変えてこういった商品は如何でしょう?』
恥ずかしくて顔が上げられない。
会場に広がる笑いに、改めて自分の言ったことの滑稽さを思い知る。
しかし、
『ははは、面白い!それになかなか上等な仔猫のようだ』
先程男が言っていた中年の紳士が、希望の金額を口にした。
戯れにしては大きすぎる金額だ。本当に、世の中には酔狂な人間がたくさんいるようだ。
『他にはいらっしゃいませんか?』
猫を買いに来たのだから、いなくても不思議はない。
『では、』
進行役がハンマーを振り上げたその時。
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