それから数日は、ひとまずまともな宿に泊まることができた。
冒険家たちの為、この国では宿だけは至る所にあるのだ。
しかし、向かう先は何もない場所だ。交通手段がそれより前に尽きていた。
これまで経験したことがないくらいの距離を歩いた少女の足には、血豆が出来ており、先程ついに潰れてしまった。
大丈夫だ、と少女は言う。
今朝出発した宿が、おそらく最後の宿だ。これからは野宿になる。
にも関わらず、
「この先の森なのでしょう?ここからは私ひとりで大丈夫ですから、トバリはここまでで結構ですよ」
少女は微笑み、細い道の先に広がる暗い森を眺めた。
「そうでした、ちゃんとお金をお渡ししないといけませんでしたね。ええと……」
言いながら、鞄の奥を探る少女。
「待て」
呼びかけて、その手を止めさせた。
「最後まで着いて行く」
「え?あの、本当に大丈夫ですよ?」
「よく考えたらペガサスに会ってすぐ不死身になるわけじゃないだろう。帰り道も護衛……というかお守りがいる」
「お守りだなんて!小さいこどもではないんですからっ」
「野宿の仕方も知らないだろう。ここから先の環境からしたらお嬢は赤ん坊のようなもんだ」
「……」
不服そうにしながらも、それは図星だったようだ。
「ついでだ、どうせ暇だしな。歩けなくなったらおぶってやるよ」
言ってから、先に立って歩き出す。
明確な目的地があるわけではないが、森の奥に進むべきなのは間違いないだろう。
痛む足を庇うように、少女はゆっくりと後ろを着いて来る。
「ここからずっと先に、湖があるらしい。ペガサスはここの水しか飲めないと噂で聞いた。運がよければそこで会えるかもしれないが――とりあえずその湖を目指してみるか?」
「そんな噂があったんですか」
「お嬢は情報収集を怠りすぎだ。闇雲に探したって効率が悪いだけなんだぞ」
つい説教くさいことを言ってしまう。偉そうに言えるような人間でもないというのに。
ただ、もしも別の誰かをこんな風に雇っていたらどうなっていたのかと考えると頭痛がしそうになる。
自分が有能だと言いたいわけではない。こんな行き当たりばったりの旅に付き合えるのは、金に目が眩んだかよほど暇な奴くらいだ。普通は付き合いきれない。
つまり自分はその両方だということだ。
面倒なことをしょい込んでしまった、とは思うが、差し当たって他にしたいこともないのだから、構わない。
『傭兵』の本分――戦争に駆り出されることを思えばままごとのようなものだ。
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(10/24)