みすずが子犬にやきもちを妬いてから一週間。俺たちは驚くほど穏やかな日々を送っていた。
俺がみすずを怒らせてしまうこともなく、腹部の痛みは消えていた。
みすずがいまだに隠し撮り写真を眺めて興奮していることを除けば、同棲生活を送る普通の恋人達のようだった。
そんなある日のことだ。
俺がいきなり数人の男たちに囲まれたのは。
『兄ちゃんちょっとツラ貸せや』
テンプレートのような台詞を本当に言う奴がいるのかと感心する余裕は、なかった。
趣味の悪い服装の男達を従えた、スーツ姿の男は、顔に傷があり、指が一本存在しなかったからだ。
拒否権は当然なく、俺は人気のない廃工場に連れて行かれた。
こんな時に限ってみすずの気配がない。嫌な予感に脂汗が滲んだ。
「兄ちゃん、あのバケモノ女のヒモだよな?」
バケモノ女と聞いて、みすずのことかとすぐに連想したことを少しだけ申し訳なく思った。
ヒモではない、とも思ったが訂正している場合でもなかった。
俺がただ黙ったままでいると、
「あの女には手が出せねえ」
苦々しい顔で、男が言った。
「ありゃやべえ。ひと噛みで腕持ってかれるとこだったからな」
そう言って左腕をさする。
この男が何者なのか、それで予想がついた。
「みすずが踏み倒した金は払う。手を引いてくれ」
大金をふっかけられるだろうことはわかっていたが、俺は男に頭を下げた。
そうしないと、大変なことになる。
「金もらうのは当たり前だ。けどな、それじゃこっちの気がすまねえんだよ」
男は凄みのある視線をこちらに向けた。
「女のツケは男が払うもんだ」
要はみすずには怖くて手が出せないから俺をボコボコにして溜飲を下げたい、ということらしい。
わかる。気持ちはわかるが。
「それはまずい。俺に手を出したら……っ!!!」
言いかけたところで、腹部に衝撃があった。
みすずのボディブローのように意識を失うほどのものではなかったが、久しぶりの痛みが走り、俺は咳き込む。
「何がまずいんだよコラ。意気地無しが」
俺を殴った手下らしき男が、今度は俺の肩を突き飛ばす。
「……っ、やめてくれ、本当にまずいんだ、」
尻餅をついた状態で必死に言い募ると、男たちは下品に笑った。
「痛いのは嫌ですやめてくださいとでも言えばまだ可愛いげがあんのによー!」
「まあどっちにしても再起不能にすっけどなあ」
「見ろよ情けねえこのツラ!」
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