「素敵です……!お願いします、傭兵さん。私をその場所まで連れて行ってください」
目を輝かせた少女は、縋り付きながら懇願する。
これが色香漂う美女の願いなら、その仕種にグラリと来ないでもないが、いかんせん目の前の少女は幼すぎる。
まだ、14か15くらいだろう。俺より十は年下に見える。
いや、そんなことはどうでもいいか。
何にせよ、ただ、
「面倒だ」
「お金は、貴方が望むだけお支払いしますから」
「いくら金目当てのゴロツキでも選り好み位はするんでね。雲を掴むような覚束ない道行きは御免だ。もちろん、これくらい出してくれると言うなら話は別だがな」
冗談のつもりでとんでもない額を少女の掌に走り書きすると、彼女は目を丸くした。
「まあ、それだけでいいのですか!?」
「何……?」
「この倍額、お支払い致します。ですから、お受けしてくださいますよね?」
心底嬉しそうな笑顔で、少女は問う。
問いというよりは、確認か。
厄介なことになったと唇を噛みながらも、ひとつの疑問が頭をもたげた。
「そんな額、いくら元お貴族様でも大金だろ。そこまでして、何故ペガサスのところへ行きたいんだ」
逆に尋ねると、少女は顔を曇らせた。
「店主さん、ホットミルクをいただけますか?」
こちらから一度目を逸らし、カウンターの向こうに立つ店主に少女は話し掛けた。
「お嬢ちゃん、ここは酒場なんだけどね」
「ええ。けれど私はお酒を呑めませんから。ホットミルクをお願いします」
「……」
店主は呆れ顔でガリガリと頭を掻きながら、奥へ消えた。作るのだろうか。
見た目から想像はつくが、相当な世間知らずのようだ。
そのわりには、こんなところへ単身乗り込み、平然としているが。
「ぼったくるからな?」
堂々と宣言し、店主が少女の前にカップを置いた。
「ありがとうございます」
小さく頭を下げると、少女はカップに口をつけた。
一口飲んで小さく息を吐くと、彼女は再びこちらを見た。
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