目を開くと、染みひとつない、真っ白な天井。
そして、真っ白な服を着た、男。
「私に関するデータは一度消しているから、はじめましてと言うべきかな。私は君の、生みの親だ」
男は、笑った。
「君が受け入れを拒絶したお姉さんの言葉を、擬似感情プログラムのデータから確認させてもらったよ。勝手に『心』を覗いて悪かったね」
ぼくは、尋ねた。
「何のために」
男は、ぼくの頭を指差した。
「今なら君の欠陥を修復することができると思ったからさ。そのために必要な作業だった」
ぼくは、しばらく考えた。
「よく、意味がわからない」
男は、再び笑った。
「君は今、自分がアンドロイドだと理解しているだろう?その上で、生きている。――正確には、作動し続けている」
ぼくは、頷いた。
「やはり、アンドロイドがアンドロイドである自覚を持たないことは、致命的な欠陥だったね。よくわかったよ」
ぼくは、瞬きを繰り返した。
「まだ、データ処理が追い付いていない部分があるようだね。特に『感情』の項目かな」
男は、苦笑して付け加えた。
「人間からすれば『偽物』の、ね」
ぼくは、男の目を見た。
「つまり、今ぼくが抱いているのは、貴方が作った感情なのか」
男は、頷いた。
「ということは、これは貴方の感情か」
ぼくは、心臓のある場所を押さえて尋ねた。
そこが、痛んだような錯覚があったからだ。
「そうはならないだろうね。それは、君だけのものだ」
男は、首を振った。
「だったらなぜ、偽物だと言うのか」
ぼくは、更に尋ねた。
ますます、痛みが増しているようだったが、止める方法が、プログラムされていないらしい。
「それでもやっぱり、君をつくったのは、私だからだよ」
男は、静かに答えた。
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