私の目を見つめたまま動かなくなった弟から、視線を逸らす。
正確には、弟であった『物』から。
弟が欲しかった。
友人に弟がいることがうらやましくて、母親にせがんだ。
しかし母親は、もう子供を産めない身体だった。
そんなことは理解できない私は、毎日のように弟をせがんだ。
六歳の誕生日。
父親が、動かない小さな男の子を連れて帰ってきた。
背中の衣服をめくると、腰の辺りに電源ボタンがついていた。
『友人の科学者から、安く譲ってもらったんだ』と父親は言った。
『アンドロイドだけれど、こうして見ても人間と何処が違うかなんてわからないだろう?人間と同じように成長するんだ』
母親は不安げな表情を見せた。
『安く、って……何かあるんじゃないの?』
父親はそれを聞いて微笑んだ。
『どうやらこの子は、自分がアンドロイドだという自覚がないらしい』
私が首を傾げると、母親が『この子は自分を人間だと思っているんですって』と説明してくれた。
『よくわからないが、アンドロイドにとってその自覚がないことは致命的な欠陥らしいんだ。商品としては使いものにならない。だが私たちなら大丈夫だろう、と友人が言ったんだ』
何が大丈夫なのか、と母親は尋ねた。
『この子とうまくやっていけるという意味さ。家族として。――考えてみれば、アンドロイドとしての自覚がない方が、本当の家族になれるような気がしないか?少なくともこの子にとって』
母親は、納得したように頷いた。
『そうね、むしろ自覚がなくてよかったかもしれないわね』
全然、良くなどなかった。
私は、弟を、壊してしまった。
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