彼は満足げに指を引き抜くと、代わりにキスで私の口を塞いだ。
「かず、っ……、んっ……!」
結局のところ状況は何も変わっていなくて、それどころから彼が両手で私に触れるから、私はもう、おかしくなってしまいそうだった。
私の息がじゅうぶんに上がってから、彼はやっと私を、膝から降ろした。
だけど、解放されたとほっとする間もなく、ソファに押し倒される。
はだけた胸元に、彼の手が滑り込んで、『縛り付ける』と言った心臓に、触れた。
こんなに速く鼓動を打っていることが、ばれてしまう。
私は、何度も何度も、首を振った。
「嫌なのか」
「……」
彼の問い掛けに、目を逸らして答えない。
「さっきからずっと、」
言いながら彼は、私の顎を軽く掴んで上を向かせる。
「欲しがっているように見えたのは俺の気のせいか」
私は、今度こそ気が変になってしまいそうだった。
「ちが、違います、違うのっ……カズマ様、私……!」
彼に見抜かれていたことも、はしたないと思われてしまうかもしれないという不安も、私を大いに動転させた。
必死で否定の言葉を繰り返す。
「俺は今、お前が欲しくてたまらない」
言いながら、彼は私の前髪をやさしく掻き分けると、額から頬をゆっくりと撫でた。
私が薬指に『しるし』をつけてしまった、左手で。
そして、
「違うのか」
彼が、もう一度聞く。
「……ちが……違い、ません……」
私は、恥ずかしさに涙ぐんでしまいながら、白状した。
「もっと、って……思いました。ぜんぶって、思いました」
彼の腕を掴んで、震える声で。
「カズマ様が、ほしい、です……」
――自分の言葉が、やけにはっきりと、部屋中に響いた気がした。
彼が、大きく息を吐く。
「最初から、俺の全てはお前だけのものだ」
もうほとんどボタンが外れてしまっていたシャツを、彼が脱ぎ捨てた。
ばさり、と布が床に落ちる音にさえ、甘い予感を覚えて、私は身を竦ませる。
「お前が欲しがるなら、いくらでもやる」
両手の指を絡ませて、私を動けなくした彼は、唇が触れるぎりぎりの距離で、囁いた。
「お前の全部で、俺をお前に縛り付けてくれ」
私はもう、今度こそ本当にもう、何も考えることができなくなってしまった。
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