「あ、えと、あの……」
抵抗するのはいつものことだけれど、急にそうした私に、彼は顔をしかめる。
だけど、こんな恥ずかしい理由はとても言えなくて、私は必死に言葉を探した。
そこで、彼の大きな手が目に留まる。
「あっ!あの!私……っ、私だけが結婚指輪をもらうなんて、だめです……!」
「別に俺は装飾品には興味などないが」
彼は不満げに言った。
「だけど、私だってカズマ様に誓いを……証をあけだいです」
彼の何もつけていない薬指を見た瞬間から、私はそう思ったのだ。嘘ではなかった。
すると、彼はしばらく私を見つめてから、呟いた。
「なるほど。縛られるというのは、悪くない」
「え?」
首を傾げる私を軽々と抱き上げ、向かい合わせのかっこうでソファに腰掛けた彼は、膝の上で戸惑う私に言った。
「俺の心臓も、お前のものだ」
「あの……」
「指輪なんてなくても、印をつけておけばいい」
「しるし?……んんっ!」
ぽかんと開いていた私の口に、彼の薬指が差し込まれる。
「噛み付いて痕でも付けておけばいい」
「かずまさ、……ん、やっ……!」
冗談か本気かわからないようなことを言いながら、彼は私をじっと見る。
きっと、はしたない顔をしているのに。
噛み付いて、と言うくせに、彼の指は私を弄んでいるみたいだ。
抵抗しようとして、はからずも舌先で彼の指をなぞってしまう。
冷たい指に、ぞくりとした。
「やめっ……私、違っ……」
意味をなさない否定の言葉を繰り返しながら、だんだん息が上がってくる。
彼は解放してくれない。
「指輪より、お前がくれるもので、縛り付られたい」
「なに、言っ……ふっ、あっ……!」
挑発するように指を滑らせるから、そのたびに私は声を上げてしまう。
それでも首を振り続けていると、彼が右手を私の背中から外した。
支えがなくなって、思わず彼にしがみつく。
彼の右手は、するりと私の膝を撫でた。
左手の指先は、口に入れたままで。
「……っ!や……」
膝から太腿に、右手が動く。
その手は、止まらないまま、その先を――
「や、あっ……!んんっ……!」
思わず漏れた高い声を何とかこらえようと唇を引き結ぶと、彼の望み通り、薬指に歯を立ててしまった。
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