嫉妬、おしおき、発情――みすずとの毎日はその繰り返しだった。
さすが動物、というべきか。いや、動物に嫉妬やおしおきという概念は存在しないか。
三日に一回はボディブローを喰らう腹はだんだん感覚がなくなっていき、縛られることには抵抗よりも諦観を感じるようになり、みすずの誘惑に流されるのは心地よかった。
だから、呆れたり、たまに本気で引いたりしながらも、みすずとの生活に俺はどっぷり浸かっていった。
ただ、ふたつ、心配なことがあった。
ひとつはみすずの『常識』のアンバランスさだ。
人間に関しての知識は十分にあるし、普通に生活していて他人に眉を潜められるようなこともない。
髪と瞳の色が人目を引くが、みすずが『人でない』などと疑われることはまずないだろう。
俺は飲食店でバイトをしているのだが、みすずは『仕事中は邪魔してはいけない』とちゃんとわかっているようで、決して店内に入ってくることはなかった。
もちろん外のベンチでずっと待っているが。
客のおばさんに色目を使われたときも、それを見ていたはずのみすずは止めに入ったりしなかった。
もちろんバイトを終えて店を出た瞬間ボディブローを喰らわされて気付いたら縛られていたのだが。
(ちなみに『あのおばさん噛み殺してないよな』と確認すると『バッグにゴキブリを仕込むだけで我慢したんですよ』と得意げに答えて俺は頭痛がした)
しかし、みすずの常識は思いがけないところで抜け落ちており、俺はたまに気が気ではない。
例えば、彼女は『金を払う』ということの仕組みがどうも理解できないらしい。
だから買い物は決して彼女一人で行かせることができなかった。
みすずの話を聞く限り、この家もヤクザ(推定)から奪い取ったようなものだし、下手をすれば取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
もうひとつの心配事は、俺が傷付いたときのみすずの反応だ。
物理的に、という意味だ。この場合。
例えば、間抜けな話だが俺は一度、スニーカーの靴紐が解けていたことに気付かず、引っかけて転んでしまったことがある。
その時は、靴を燃やされた。
さらに間抜けな話だが、ぼうっとしていて電柱にぶつかったこともある。
みすずは電柱を引き抜こうとした。もちろん止めたが。
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