「上等な宝石ではないかもしれないが」
「そんなこと、全然かまいません。すごく嬉しいです」
私が心からそう伝えると、彼は少しだけ口の端を上げた。
「それならよかった」
しばらくうっとりと指輪を眺める。
小さなダイヤモンドが付いたその指輪は、きらきらと輝いている。
「カズマ様、つけてみていいですか?」
すると、彼がこちらに手をのばした。
「貸せ、俺がやる」
「えっ」
「愛の誓い、だったか。そうするものなんだろう?」
彼がそんなことを言うから、私は戸惑ってしまう。
「えっと、でも……」
彼は私の手から箱を奪い、指輪を手に取った。
「あの、カズマ様……」
彼は黙ったまま、ソファに座る私の目の前で、片膝をついた。
騎士のような姿勢で私を見上げる彼に、私は落ち着かなくなる。――もちろん彼は騎士ではなく王子様なのだけれど。
彼は私の左手を取り、ゆっくりと薬指に指輪をはめた。
大きさは、私の指にぴったりだった。
「これからも、俺の妻でいてほしい」
私を見上げながら、彼が言う。
「カズマ様、あの……は、恥ずかしいので、あまりからかわないで……」
「からかってない。愛の誓いというのをしているんだ」
そう答える彼は、いたずらっぽく笑っている。やっぱりからかっていたらしい。
私が複雑な顔をしていると、彼はすっと立ち上がった。
「左手の薬指には、心臓と直接つながっている血管があるそうだ。だから、結婚指輪は左手の薬指にはめるらしい」
指輪のはまった私の指に、彼は唇を寄せた。
「……!」
「心臓を、縛り付けてしまったようで少し気が咎める」
彼の舌先が私の指を這って、びくりとしながら私は答えた。
「心臓、だけじゃなくて……私のぜんぶ、カズマ様のものです、から……」
すると、彼が私の両手を強く引き、立ち上がらせた。
そのまま、流れるように唇を重ねる。
指輪のはまった左手に指を絡ませながら、彼はくちづけを繰り返した。
くらくらして、息が苦しくて、恥ずかしい。
頭に直接響いてくる、キスの感覚に、身体じゅうが熱くなる。
もっと、と願ってしまいそうな自分がはしたなく思えて、彼の胸を強く押した。
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