そうやって俺をあっさり押し倒してしまえるみすずに、力では全く敵わなかった。
そのせいで、みすずに殴られるのは日常茶飯事になった。
理由はさまざま。共通するのは、みすずが気に入らないことを俺がしてしまった時、ということだ。
例えば、道端の猫を撫でた、女の子と話した、ティッシュ配りのティッシュをもらった、小さい子に抱き着かれた――等。
そのたびにボディブローをお見舞いされては、縛られて部屋に閉じ込められる。
おしおきのようなものだった。
俺が殴られるだけなら構わないのだが、問題は、猫や女の子、ティッシュ配りの人や小さい子ども――そちら側だった。
みすずが他人に危害を加えないように止めるのには、いつも苦労した。
みすずが最初に猫の尻尾の毛をむしったときに、しつこいほど言い聞かせたから、みすずが人間を傷つけるような事態には、今のところ発展していない。
しかし、ゼミの女の子がくれた旅行の土産(かわいいぬいぐるみ)はずたずたに引き裂かれたし、小さい子に抱き着かれたときは無理矢理風呂にぶちこまれ全身を三回洗われたし、もらったティッシュは――あれはみすずのものになっただけで済んだんだった、そういえば。
とにかく、そんな風にみすずを怒らせた時は必死に謝って解放してもらうしか手だてがなかった。
とはいえみすずは意外とあっさり許してくれることも多い。――特にみすずが発情した時はそれに乗じて縄を解かせるのは簡単だった。
一度だけ手強かった日があったが。
あれは子どもに抱き着かれた日か。
『そんなに子どもが欲しいんなら子作りしましょう!』
『別に欲しいわけじゃない!待て!お前に風呂でめちゃくちゃに洗われて疲れ切ってるんだ!やめろ!』
『義高さんは何もしなくていいですから!私に任せてください!』
相変わらず顔に似合わない発言をしながら服を脱がしていくみすずに、両手足を拘束されている俺は抵抗する術がない。
みすずにされるがままになっていると、だんだんいろいろな我慢がきかなくなってくる。
『……っ、みすず、縄を解け』
『だめです!だってさっき義高さん、やめろって。解いたら逃げちゃうんでしょう?』
『馬鹿……この状況で逃げると思うのか。もう限界だ、早く解いてくれ』
『!』
その意味を察したみすずは、わざと焦らすように俺の懇願をひたすら無視し続けた後、本当に我慢の限界というぎりぎりのタイミングで、やっと縄を解いてくれたのだった。
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