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「ちょっと待って?ビアンカちゃん」
「何よ、イバラ?」
イバラ兄の眼が鋭く光った。
「千雪、殺す気?」
「え?いつも言ってるけど……そっか、いつもトキかミオたんしかいなかったもんね、あたしがこのガキ殺しに来たとき」
「許さないよ」
「は?殺し屋が何を甘い、」
「千雪を殺すのはボクなんだ。両想いになってベタベタに甘やかして甘やかし尽くしてから殺すんだよ?」
イバラ兄は恍惚とした表情で宣言した。
耳にタコができるくらい聞きあきた台詞だけど、千雪は嫌悪感に顔を歪めているし、トキ兄はイバラ兄を睨みつけている。
「あー、あんたはそういう人種だったわね。相変わらず気持ち悪いわ」
ビアンカは右手をひらひらと振って呆れた表情になる。
「褒め言葉だよ。でもさ、ボクと千雪が結ばれたらボクたちウィンウィンでしょ?わざわざビアンカちゃんが殺さなくてもよくない?」
「そうだけどね、あたしはこのガキを自分の手で始末したいのよね。トキの奥さんっていうポジションを一瞬でも手に入れたガキよ?直接手を下さなきゃ女が廃るわ」
「…………そう、じゃ交渉決裂だね」
すっ、とイバラ兄が眼を細める。
そして流れるような動きでナイフをビアンカに投げた。
「先にアンタを始末しなきゃならないわけね?」
ナイフを避けたビアンカも、表情を消す。
腰に挿していた拳銃を素早く構えて、躊躇いなくイバラ兄を射撃した。
呆れ顔のトキ兄が千雪を背中に庇う。
ぼくも、テーブルのお菓子に手をのばしてため息をついた。
「お前ら、外でやれよ!家が壊れる!」
「そのつもりだよ、トキ兄〜ボクのお気に入りの花瓶が割れちゃうもん」
「待ちなさい、イバラ!あんたとはとことん気が合わないわ、今日こそ殺る!――トキ、こいつ始末したら迎えに来るからね、その小娘と最期のお別れしててよね!」
肩を組んで登場したくせに、結局こうなるのだ。
ビアンカとイバラ兄は小さい頃から何度も殺し合ってるんだけど決着がつかなくて、いつもどっちかが飽きて終わるんだよね。
「毎度毎度当事者を無視して話進めやがって。迎えに来るだの両想いだの……どっちも返り討ちだっつーの」
トキ兄は慣れっこだから悪態をついているけれど、さすがに千雪はそうはいかない。
ビアンカに襲撃されたのは一度や二度じゃないけれど、一般人が慣れるものじゃないだろう。おまけに彼女は幼なじみだから、要塞であるこの家に平気で出入りできるのだ。
強がった表情を見せているものの、千雪の手は小さく震えている。
「千雪、大丈夫だよ。もうあの二人、お互いしか目に入らないモードになっちゃったから今日はもうビアンカが殺しに来ることはないよ。――ね、トキ兄?」
「……お?おう、そうだよ、心配すんな」
トキ兄は慌ててうなずく。先にトキ兄が気づいて声かけてあげてほしかったけどね、気が利かないよね。
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