殺し屋一家 | ナノ


▼ 両親を見習おう

「マコさん、おはようっ!今日も綺麗だね!」

「おはよう、トラさん。トラさんもとっても男前よ」


『ひしっ』という効果音が聞こえてきそうな、朝の日常風景だ。

同じ寝室で寝ているはずなのに、父さんがリビングに出てくると朝食を作り終えたばかりの母さんと、朝の『ご挨拶タイム』ーーもといイチャイチャ劇場が繰り広げられる。


「おっ!今日は卵焼きだね!マコさんの卵焼きは天才的にうまいんだよね、嬉しいなー!いつもありがとうマコさん、大好きだよっ」

「うふふっ、トラさんが嬉しいと私も嬉しいわ、ありがとう。私も大好きよ、トラさん」


いかつい見た目を大きく裏切るあまーい声音で父さんは母さんと接する。しゃべり方も普段と全然違う。目を瞑って聞いていたら、とても殺し屋一家のボスとは思えない。

母さんはいつもこんな感じだけど、人前でイチャつくことに何の抵抗もないあたり、似たもの夫婦だ。


トキ兄はいつも渋い顔で見ないふりをしているし、イバラ兄は全く気にとめてもいない。千雪はいまだに恥ずかしいのか、俯いてやり過ごしている。

ぼくはさすがにもう慣れてきて、今は二人のストップ係だ。迷惑な。


「父さん、母さんの天才的な卵焼きが冷めちゃうから食べようよ」

「ん?ああ、そうだな。まあ冷めてもウマイんだがな、ねえマコさん?」

「うふふっ、ありがとう、トラさん。でもトキくんとミオくんはあったかいのが好きだから、そろそろ食べましょうか」

「マコさん、優しいんだから〜家族思いな奥さんで俺は幸せだよ!」

「わかったから、早く食べるよ」



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「というわけでね、トキ兄たちも父さんと母さんを見習うべきだと思うんだよね」

「何が『というわけで』だ!!!あんな中年のイチャこきなんか見たくねーし真似もしたくねえ!」

「年齢で差別しちゃだめだよ」

「親のイチャこきを見たい野郎がいるかよ!」

「話を逸らさないでよ。ぼくは千雪とトキ兄の話をしてるんだよ。あれぐらいしないと夫婦らしくなれないよ。夫婦なのにバカみたいな見栄張ってるせいで何も進展してないじゃない。キスもしてないでしょ?千雪はともかくトキ兄は欲求不満でしょ?」

「……まくしたてんな。欲求不満じゃねえ」


作戦会議と銘打って、ぼくはトキ兄を自室に呼び出し、素晴らしいアイディアをプレゼンしていた。

依頼絡みの作戦会議と思い込んでいたトキ兄は逃げようとしたけれど、なんとか止めた。


「ぼくが父さんたちのいつものイチャイチャを脚本にしてあげるからさ、ふたりで読みながら練習したらいいと思うんだよね!」

「……お前ってたまにスゲーバカだよな」

「トキ兄のくせに生意気だよ。幼い弟のこどもらしい無垢な願いを無下にするの?」

「無垢なガキは脚本とか言わねえよ」

「トキ兄の時代とは違うんだよ。実はほら!脚本もうできてるんだよ!」

「いらねえ」

「…………そう、わかった」


あっさり引き下がるぼくに、トキ兄が怪訝な表情になった。

いいんだ、ここまでは想定の範囲内。むしろ前フリ。ここからが作戦の本番なんだから。


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