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そして、トキ兄は千雪に右手を差し出し――――
「ほら、やるよ」
「…………あめ?」
うおーーーーーーい!!!!!!
「トキ兄はバカなの!?ねえ!?バカなの!?」
たまらず、僕は二人の前に飛び出した。
「おおおおまえいつからいやがった!!!???」
トキ兄は、のけ反った拍子にあめを取り落とす。
「最初からだよ。トキ兄、それでも男!?これだけお膳立てしてもらって!」
「うっせー!これからそのつもりで……じゃねえよバカ!!!」
バカなトキ兄は、僕にバカと怒鳴ってきた。
心外だ。そしてバカだ。
「千雪が可哀想だよ、トキ兄……」
「何がですか!?ミオさん!?」
「だって千雪、せっかく今、」
「違います!わ、私、全然ドキドキなんかしてませんからねっ!?期待もしてないですからねっ!?」
千雪もけっこうバカなのだ。
「ほら見ろ!何が可哀想なもんか!こんなガキが!」
いや、ドキドキしたって言ってるんじゃん。
気付いてないのかよ。やっぱりバカだな。
「……だんなさまの大バカ!!!」
「ああっ!?なんだいきなり!?」
「殺し屋!!!」
「そうだよ、殺し屋だよ、悪いか!?」
「悪いです!きらいです!」
「俺だって好きじゃねーよ、バーカ!」
「バカって言う方がバカなんですから!」
「先にバカって言ったのお前だろ!」
「先にミオさんにバカって言いました!」
「ミオが先にバカっつったぞ!?」
「だんなさまがバカだからです!」
「あー!ほらバカって言ったじゃねえか!」
結局、今日も加賀美家は、しょうもない夫婦喧嘩に始まり、しょうもない夫婦喧嘩で幕を閉じた。
殺し屋一家は今日も平和でけっこうなことだ。
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