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『なんで仕事に人生左右されなきゃなんねーんだよ!』
『殺し屋になった時点で左右されてる気がするがなあ』
『うるせー!そういうことじゃねーんだよ!』
『何の罪もないのに両親のせいで殺し屋に狙われてるちーちゃんの身にもなってみろ。黒幕はわからんし、どこの誰が殺しに来るかもわからんからなあ、気が休まらんだろう』
『黒幕殺せって依頼してくれりゃさっさと殺すってのに』
『あのじいさんは真人間だ。そんな依頼はせんだろう。父親はろくでもなかったようだが、いいじいさんに育てられたな、ちーちゃんは』
うんうん、と一人頷く父さん。父さんは千雪を気に入っている。こんな娘が欲しかったらしい。
ちなみに、黒幕探しは父さんが既に着手している。
『だいたい俺はお前の汚点を帳消しにしてやったようなもんだぞ、感謝してほしいくらいだがなあ』
『家訓のせいでどうやっても殺せなくなったんだぞ!むしろ悪いわ!』
結婚さえなければリベンジできたのに、という意味らしい。
『ちーちゃんを殺せって依頼はこっちで破棄したからどっちにしろもう殺せんだろ。依頼なしの殺しは禁止だからな。――そもそもトキお前、そんな威勢のいいこと言ってほんとに殺せるのか?ちーちゃんを』
『……』
『ふはは!ほら見ろ』
『……っ、だいたい何で殺し屋が護衛みたいな真似しなきゃなんねーんだよ!どうせじいさんの持ってきた金に目がくらんだんだろ!』
『金は大事だぞ、なくなったら暮らしていけん。それにじいさんの話を聞いてちーちゃんを助けてやりたくなったのも事実だ。あの子の辛い気持ちを考えるとな、放っとけんかったんだよ』
『それで息子の気持ち無視して結婚させたってか!ふざけんな!』
すると父さんはチラリとトキ兄を見た。
『ほう、結婚したくなかったか』
『当たり前だ!』
それを聞いた父さんはニヤニヤと笑った。
『そうか、じゃあ仕方ない。ちーちゃんはお前と離婚させてイバラの嫁にするか。イバラの奴、ちーちゃんに惚れてるみたいだしなあ』
『馬鹿!やめろ!!!』
『なぜだ?』
『……あいつ、頭おかしいし』
『確かにイバラは殺人狂だが、家訓があるからちーちゃんはちゃんと守るだろう。だいたいトキ、結婚したくもなかったどうでもいい娘のことなんて気にする必要があるのか?――イバラが年齢的にはちょうどいいしな、よし、そうしよう』
『だめだ!!!』
『なぜだ?』
『あいつは俺の、………バ、バツイチなんてかっこわりーからだよ!!!』
『ふはは!!!もうちょっとましな理由はなかったのか』
愉快そうに笑うと、父さんは、目を逸らしていたトキ兄の肩に手を置いた。
『ボス命令だ。離婚する気がないんなら、もうちょっとちーちゃんにやさしくしろ』
面白いことになった、と二人の様子をのぞき見していたぼくはほくそ笑んだ。
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