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たまに、彼に差し入れを持ってくる女の子たちもいる。
そんな時、私は少しだけ胸がちくりとする。
彼は、その子たちに笑顔でお礼を言っている。
すごくキラキラした笑顔だけど、泥だらけのユニホームで走り回った後に見せるあの笑顔とは全然違う。
それを確認して、いつも私は少しほっとする。
あのひとの目に映してほしいなんて言わない。
あのひとの全てを知りたいなんて言わない。
だけど、あの泥だらけの笑顔だけは、グランドの外の誰かに向けないでほしい。
あの笑顔になるのは、野球のことを考えているときだけであってほしい。
私は、その『特別』な笑顔を見ることができれば、それで幸せなのだ。
だから私は、今日もあのグランドへ向かう。
彼の『特別』な世界の近くに、少しでも居たいから。
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(3/3)