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『キャッチボールしようか』
彼女が俺の予備のグローブを取り出して笑う。
俺は頷く。
夕焼けをバックにした彼女と、黙ってひたすらキャッチボールをする。
ミスをして、もうこりごりだと思っても、俺はひたすらボールを放っている。
明日になったらまた野球のことばかり考える毎日なのだろう。
失敗したって、うまくなくたって、それは単純に野球が好きだからだ。
彼女もそうなのかな、と少し考える。
理由なんて、探さなくていいのかもしれない。
今日の帰り道は、勇気を出して、自分から彼女の手をとってみようかな、なんて思いながら。
俺は、彼女の投げるゆるい球を、しっかり受けとめた。
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