アルバート30歳/ミリアム14歳 夏
あたしの仕事仲間、ひとつ年下の女の子・ミリアム。
こんな小さな食堂でウェイトレスをしているのがもったいないくらいの美少女で、少し世間知らずだけど、いつも一生懸命。
そして、そんなミリアムがいつもいつも口にする、名前がある。
「アルバートさんの作ってくれるごはんはいつもおいしいんです!それにすごくすごく、やさしいです!」
「……やさしい、ねえ」
他の奴が言ったら嫌味か惚気にしか聞こえないはずなのに――ミリアムがほんとに嬉しそうだからか、あたしがミリアムを可愛くてしょうがないと思っているからか、そんな風には聞こえない。
代わりに、あたしは呆れた声で言う。
「アルバートなんてただのロリコンじゃん」
「ろりこん?」
「……」
ほら、これだ。
もう14歳だというのに、ミリアムは全然すれていない。
ふたりがこの町で暮らし始めるまでどんな生活をしていたのか、詳しいことは知らない。
だけど、ミリアムの世間知らずは間違いなくアルバートのせいだと思う。
汚いものに触らせないように、近づけないように――そうやって守ってきたに違いない。
ミリアムは捨て子だったというから、そのときのような辛い思いをさせたくなかったのかもしれない。
それが気に食わない。
だってあの『保護者』は、いけ好かない男なのだ。
無愛想で、たまに陰険で、あいつが見ている前であまりミリアムに近寄ると睨まれる。
おまけにミリアムと出会うまでは金持ちの放蕩息子だったというし、ミリアムを売り払おうとしたこともあったらしい。
(友人のロニーという男から聞いたことだ)
ミリアムがいなければ、あんな男ただの屑じゃないか。
だけど、ミリアムを大切に大切にしていることは一目瞭然で、そこに全く嘘はないとわかるから、気に食わない。
あんな男はやめておけ、と言ってやりたいのに、ミリアムがいつも本当に幸せそうにアルバートのことを話すから言えなくて――だから気に食わないのだ。
ミリアムを見ていると本当に、恋は盲目だなあと思う。……恋、なんだよな?これ。
アルバートが年甲斐もなくミリアムに参ってしまっているのは、もちろん言うまでもないのだけれど。
「あーあ、あたしが男だったらなー、あんなロリコンぶっ倒してミリアムをもっと幸せにしてやるのに」
「フィリスが男の子だったら、とっても強そうです!」
なんとなく的外れなミリアムに、あたしは思わず笑う。
うぶなこいつにいろいろ教えてやってアルバートに意趣返し、なんてのもいいな、と意地悪な考えが頭を過ぎった。
阿呆みたいに動揺しているアルバートというのも、なかなか見物かもしれない。
とりあえず、そんな想像で、今日は溜飲を下げることにした。
「だけどフィリスはとってもきれいだから、女の子のままがいいです」
「何言ってんだよ、うちの店はミリアム目当ての客ばっかだってのに」
「でもお客さんたちみんな、フィリスは『黙ってたら美人』って言ってましたよ?黙っててもおしゃべりしててもフィリスはフィリスなのに、どういう意味なんでしょう?」
「あいつら……」
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