アルバート31歳/ミリアム15歳 夏
『そばにいさせてくれ』
それは、心からの懇願だった。
16も年下の少女に恋をして、自分の感情を持て余し、隠すこともできないくせに開き直ることもできない。
カールというガキと一緒にいるミリアムを見て、現実を突き付けられてもーー
どう考えても、ミリアムの隣に立つべきは俺じゃない。誰が見ても不釣り合いだ。
頭ではこれ以上ないほど理解していても、駄々っ子のように『嫌だ』と泣き叫ぶ自分がいる。
もう、そんな醜いものを見せたりしないから。明日からはちゃんと取り繕ってみせるから。
お前の世界から、俺を追い出さないでくれ。
気づかれなければ、ごまかしきれると思っていた。
ミリアムがあのガキとでも幸せになれば、心を殺して、ごまかして、家族の顔をしてーーミリアムの親愛を享受し続けるつもりだった。
それなのに、ミリアムはそんなことは許さないとばかりに、俺を問い詰める。
心を殺す覚悟なんて持ち合わせていなかったことを、思い知る。
ミリアムが俺に向けた感情を言葉にしかけて、浮かんだのは喜びより、焦りだったのだ。
俺がミリアムを不幸にしてしまう。また、不幸にしてしまう。
なのにーー離れたくない。
床に広がったミリアムのスカートをぼんやりと見つめながら、俺は自分を嘲笑った。
なんて卑怯なんだ、俺は。
「………そんな言葉は、卑怯です」
ミリアムの、抑えた声音に、俺は弾かれたように顔を上げた。
心を読まれたかのような、糾弾の響き。
こちらを見つめるミリアムの瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだった。
ああ、ミリアムを泣かせるのは何度目だろうーー自己嫌悪に目の前が暗くなる。
「聞いてしまったことを『知らないでくれ』なんて、無茶です。アルバートさんは大人なのに……そんなこともわからないんですか?」
卑怯です、とミリアムはもう一度言った。
こちらを睨みつける彼女は、間違いなく怒っていた。
「それに、わたしが大事なら、わたしが大事にしたいものを勝手に決めつけないでください」
衣擦れの音がして、ミリアムが俺の方へ身を乗り出す。
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