アルバート31歳/ミリアム15歳 夏
「ごめんなさい、わたし、好きな人がいるんです」
頭を下げると、正面に立つ彼は苦笑した。
レストランの裏にわたしを呼び出した彼は、食材を配達してくれる馴染みの男の子だった。
「だよね……わかってた。でももしかしたら、僕の気持ちに気づいてくれたら、男はあの人だけじゃないって思ってくれるかもって、ちょっとだけ期待したんだ」
『好きな人』が誰なのか、言わなくても知られていることが恥ずかしい。
上手に隠せないわたしは、こどもだと思う。
アルバートさんがわたしをどう思ってるかは、全然わからないのに。
告白を断ってしまった罪悪感にため息をつきながら、振り返る。
すると、そこには、
「えっ!?あ、アルバートさん!?」
「悪い、立ち聞きするつもりはなかったんだ」
アルバートさんが苦い顔で立っていた。
「あの……どこから聞いて、」
「迎えに来たらミリアムが頭を下げてるのが見えて、何かあったんじゃないかと思って近づいたんだ。声はほとんど聞こえなかった」
ひとつ年下だったか、とアルバートさんは呟く。
「え?」
「今のガキだよ。確か配達の……」
「はい、カールです。いつも優しくて……でも初めてのことだったのでびっくりしてしまいました」
「……そうか」
アルバートさんの表情がいつもより暗い気がして、わたしは不安になった。
「あの、断りました。アルバートさん、いつも言ってるから、他人に簡単に気を許すなって……だから、」
言い訳をするようにアルバートさんに近づいて、見上げる。
アルバートさんが好きだから断りました、とは言えなかった。
それを聞いて、なぜかアルバートさんは目を逸らした。
そして、笑う。
「別に俺に遠慮することなんてない。ーー嫌いじゃないのなら、付き合ってみればいいんじゃないか」
似合ってるじゃないか、とアルバートさんは言った。並んで歩けば恋人同士にしか見えないだろう、と。
「俺も若い頃そうだった。好かれてるならとりあえず付き合ってみたら楽しいもんだよ」
アルバートさんらしくない言葉に、投げやりさを感じる。どうして?と訝るわたしにアルバートさんはもう一度言った。
「俺に遠慮することなんてない」
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