アルバート31歳/ミリアム15歳 春
『そりゃそうでしょ。アルバートが保護者代わり、なんて笑っちゃうものね。あのお嬢ちゃんの顔見たら丸わかりだし』
指定された酒場で、席にもつかず『帰る』と宣言した俺を、レイチェルは問い詰めた。面白がるような表情で、だが。
観念して、俺は事実と本音を手短に話した。
するとレイチェルは、手を叩いて爆笑したのだった。
『だけどアルバートの方が熱を上げてるなんてね。そこはちょっと信じられないかも。面白いわー!』
レイチェルは、『恋人が途切れたから次ができるまでアルバートと遊ぼうかなと思ってたんだけど』と微笑んで、席を立った。
『女性に恥をかかせたんだから払ってくれるわよね?』
恥どころか、スキップをしながら酒場を出ていく後ろ姿を、俺はため息をついて見送った。
――本当に、こんなものだったのだ。俺の過去の恋愛なんて。お互い『楽しいから』、『暇を潰すのに最適だから』関わっていたのだ。
言い訳のように、そんなことを考えた。
ミリアムに、何を言い訳する立場だというのだろう。
****
帰宅すると、ミリアムは既にベッドに潜り込んでいた。
起こさないよう、息をひそめて衝立を越える。
「……」
微かな寝息をたてるミリアムの頬は、涙で濡れていた。
――この涙を、どう解釈すればいいのだろう。
俺も馬鹿ではない。ミリアムの態度が、視線が、言動が、ここで暮らし始めた頃とは違っていることには気づいている。
だがそれは、『どちら』なのかわからない。
家族、保護者代わり。ミリアムがそんな表現に違和感を抱いているのは――求められているのか、拒絶されているのか、わからないのだ。
いや、ミリアムに限って、今さら俺を拒絶するとは思えない。自信過剰と言われるかもしれないが。
だが、『求められている』のならば、それは。
『同じ』なのか『違う』のか、『同じ』であれば『許される』のか、『許される』として『幸せ』なのか――頭の中ががんじがらめになって、ミリアムを前に、立ち尽くす。
それでも『期待』をしてしまう自分を、汚いと思う。ミリアムには、どんな風に映るのだろう。
涙を拭ってやりたかったが、ミリアムが目を覚ますのが怖くて、そのまま彼女に背を向けた。
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