アルバート31歳/ミリアム15歳 春
「アルバート、久しぶりね」
「……何でここがわかったんだ」
「たまたまよ。懐かしくなったから来ちゃった」
綺麗な金髪、綺麗な青い目、他にもたくさん――突然アパートに現れた女性は、わたしにないものをぜんぶ持っているような、とにかくきれいなひとだった。
レイチェルと名乗ったその女性は、わたしに気付くと意外そうな顔をした。
「今はこの子が恋人なの?」
アルバートさんは、ぎくりとした表情になる。そして、
「違う、恋人じゃない。保護者代わりだ」
気まずそうにそう答えた。
そのことばに、わたしの胸は、ちくりと痛む。
わたしは、アルバートさんのことが大好き。保護者代わりでもなんでも――『ペット』だったころから――わたしはアルバートさんのそばにいられるなら、どんな形でもよかった。
だけど、ほんとうは、望んでいることがある。
アルバートさんの、恋人になりたい。
アルバートさんの、いちばんの特別になりたい。
好きだって、言われたい。
それはきっと、よくばりな望みで。
叶うことなんてないと、わかっている。
わたしはこどもだから。
それでも、このひとの前で、『違う』と、『保護者代わり』だと、言われたことが――悲しくて、悔しかった。
「へえ?……まあそうよね。今までとタイプが違いすぎるし、第一こどもだものね」
なんだか余裕のある笑い方をするレイチェルさんを、まともに見られない。
いやな顔をしている、と自分でもわかるから、アルバートさんにも見られたくなくて、わたしはずっとうつむいていた。
「ここじゃ難だし、後で飲みに行きましょ?これ、時間と場所書いておいたから」
レイチェルさんはそう言って一枚の紙を渡すと、答えも聞かずに踵を返し、アパートを後にした。
「……ミリアム、」
「今日の夕食はわたしが自分の分だけ作るので大丈夫です。行ってきてください」
何かを言いかけたアルバートさんを遮るように、わたしは顔を上げて言った。
せいいっぱいの笑顔をつくる。
「彼女と話すことなんて別にないんだ。ミリアム、俺は、」
「だけどアルバートさんが行かなかったらレイチェルさんは待ちぼうけすることになってしまいます。行ってください」
「……」
アルバートさんは、困ったような顔で黙ってしまった。
だから、また胸が痛くなって。
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