アルバート30歳/ミリアム14歳 春
ミリアムとピクニックに出かけたはずなのに、余計なおまけがついてきた。
「アルバート、あんたさ、ミリアムに子供子供って言うの、やめてやれよ」
そしてなぜかそいつは、俺の隣に腰を下ろし、こちらを睨んでいる。
当のミリアムは、数人の小さな子供たちと仲良くなり、きゃあきゃあ騒ぎながら追いかけっこをしていた。
それを眺めながら、俺はフィリスに答える。
「子供に子供って言って何が悪い」
「ことさら強調することもないだろ。だいたい14なんてほとんど大人じゃないか。ミリアムに暗示かけてるみたいに見えるんだよ、あんた見てると」
「何の暗示だ」
「お前は子供だ、だから俺はお前に変な感情は持ってない、ってさ。だから警戒してくれるな、ってのが本音?気付かれて嫌われるのが怖くて予防線張ってんのか?いい歳こいて」
「いい歳は余計だ」
「否定はしないんだな」
――否定は、できなかった。
さらに付け加えるなら、自分に対しても予防線を張っている。子供だと言い聞かせていれば、理性が働く。
さすがにそこまでは、このガキも読めてはいないらしい。
「ほんとに子供じゃなくなったらもうその言い訳は効かないんだぞ?自分の首絞めるはめになるんじゃない?」
首ならとっくに絞めている。
子供子供と言い聞かせた結果、ミリアム自身にもそう思わせていることが、いろいろな苦労を呼び寄せた。
無邪気にまとわり付いてくるミリアムに何度もギクリとさせられ、ミリアムが『子供』でいることに安心しながらも時に物足りなく感じる。
自分が築いた堤防を、自分で壊してしまいそうになるのだ。
「――なんにせよ、今は子供だ」
そう言うと、フィリスがジトリとした視線を向けた。
「何だ」
「いっそ変態じみてくるな」
「はあ?」
「あんたがミリアムに参ってるのは見え見えだ。そんな状態で『子供だ』なんて言い張ってるとなんか……『ロリコンです』って宣言してるように聞こえてくる」
「馬鹿じゃないのか?」
「案外マジだったりして。うわ、だったら本気で気持ち悪いな。それ以上近寄るなよ、ロリコン」
汚いものを見るような目でこちらを見るフィリスに、俺はげんなりした。
「心配しなくてもお前には欲情しない」
と。フィリスは間髪入れず、
「ミリアムにはするんだ、欲情」
「!?」
しまった。よりによってこいつの前で墓穴を掘ってしまったことに気付く。
「……そういう話じゃない」
「あたしもそういう話じゃなかったんだけど。『近寄るな、変態がうつる』って意味で言ったんだけど」
冷たく言われ、俺は何も返せない。
せめてこの場にロニーがいなかったことだけが救いだ。こいつが告げ口する可能性はあるが。
「――わかった、もう勘弁してくれ。そして放っておいてくれ、頼むから」
「えらく素直で気色悪いな。あたしはあんたがミリアムを泣かせなきゃそれでいいんだよ。ミリアムはあんたにはもったいないけど、ミリアムがあんたがいいって言うんなら認めてやってもいいし」
「……お前はミリアムの何なんだ」
「親友だよ。可愛くてしょうがない。妹みたいでもある。いっそ男に生まれてたらと思うときもあるな」
見た目だけならミリアムにひけをとらない美少女であるフィリスは、その容姿にはあまりにもそぐわない発言をする。
「お前が女でよかったよ」
これは、割と本気だ。
「感謝しな。まあ、あんたのためじゃないけど。これっぽっちも」
何故か偉そうに言うと、フィリスはすっと立ち上がり、ミリアムの方へ駆け出した。
「おーいミリアム!がきんちょども!あたしもまぜてくれ!」
広い公園を駆け回りながら、時折ミリアムに抱き着くフィリス。
それを真似て子供たちもミリアムにしがみついたりしている。
「……どいつもこいつも、みんな子供だ」
俺はひとつため息をついて、ぱたりと芝生に背中を預けた。
空が青くて、目眩がした。
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