アルバート31歳/ミリアム15歳 冬
ロニーのつてで、俺とミリアムはちょっとしたパーティーに参加することになった。
俺は、ロニーに借りた正装で無難に済ませたが、ミリアムはフィリスが『見てろ!お姫様みたいにしてやるから!』とどこかに連れて行ってしまった。
会場の前で待ち合わせているのだが、ミリアムはなかなか来ない。
俺が時計と睨めっこを始めた頃。
「アルバートさんっ」
弾んだ声に振り返ると、
「遅くなってごめんなさい!」
そう言ってこちらを見上げるミリアムは――
「……もう始まってる。行こう」
俺は、ミリアムの手を取り、会場へとエスコートした。
なめらかな絹の手袋をしたミリアムは、ふわりとした髪の両側を、緩く編み込みにしてそこに髪飾りを付けている。
ドレスは確かにどこかのお姫様のようで、フィリスはどこでこんなものを調達したのだろうかと疑問に思った。
俺は、ふとミリアムの足元に目を遣った。
「そんなにヒールの高い靴を履いてたら転ぶぞ」
「はい、気をつけて歩きます!」
「足が痛くなるだろう?フィリスに無理強いされたんじゃないのか?」
「ちがうんです。わたしが、アルバートさんに釣り合うように、きれいになりたいって言ったんです」
釣り合うどころか、その姿は――
頭を過ぎった思いを飲み込み、俺はミリアムに尋ねた。
「だからってヒールを高くする必要があるのか?」
「少しでも背が高く見えたほうが、アルバートさんと並んだとき恥ずかしくないかなって思って」
「いつも通りでも恥ずかしいことなんてないだろ」
「こどもだって、周りのひとから思われたくなかったんです」
「……」
ミリアムは最近、よくそんなことを言うようになった。
想いが通じ合ってからだろうか。何かあるとすぐに『こどもじゃない』と拗ねる。
子供扱いをしているつもりはないが、ミリアムが俺とは歳の離れた15歳の娘であることに変わりはない。
しかしそれが、ミリアムには不満のようだった。その距離を埋めることはできないというのに。
そのことに、いろいろと思うところはあるが、今日この場に関して言えば、誰かがミリアムを子供だと笑うようなことは万に一つもないだろう。
フィリスの仕事は、完璧だった。
****
ミリアムに声をかけてくる男たちを追い払い、ミリアムの高い靴を気にしながら、幾人もの知り合いと挨拶を交わす。
のんびりとパーティーを楽しむ余裕はなかった。
そんな俺を、ミリアムが心配そうに見ている。
と、
会場の照明が色を変えた。
そして楽器を持った数人の男たちが会場の一部を陣取り、優雅な音楽を奏で始める。
「ダンスもあったのか」
堅苦しいパーティーではないと聞いていたから気軽な気持ちでやってきたが、詳しいプログラムを全く把握していなかった。
ミリアムに珍しいものを見せてやれるだろう、というくらいにしか思っていなかったのだが、
「アルバートさん、わたし、ダンスなんて全然できません……」
ミリアムが泣きそうな顔で俺の服を掴んだ。
「気にするな、俺もダンスは好きじゃない。面倒だから中庭にでも行こう」
俺はミリアムの手を引いて、熱気の溢れる会場から抜け出した。
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