アルバート34歳/ミリアム18歳 冬
「いらっしゃいませ……あっ!」
昼食には少し遅い時間。
カランコロンと音をたてて食堂の扉を開いたのは――
「アルバートさんっ!?どうしたんですかっ?」
わたしは、無表情に店内を見回すアルバートさんに駆け寄った。
「ちょうど近くで仕事があったから来てみた。今日はもう終わりだ」
「そうだったんですか」
ここで働き始めて何年も経つけれど、アルバートさんがお客さんとして来てくれたのは初めてだった。
わたしはアルバートさんを席に案内する。
と、
「ミリアム、まさかその兄さんが噂の恋人さんかい!?」
「げっ…いい男じゃねえか、くそー!」
「いくつだ!?けっこう歳離れてるだろ!年上が好きなら俺だって!」
からかい半分に話しかけてきた常連さんたち。
それを見たアルバートさんが、目を細めた。
「……帰る」
「えっ!待ってくださいアルバートさん!」
言いながら踵を返したアルバートさんの服を、掴んで止める。
「せっかく来てくれたのに!ここのお料理、すごくおいしいんです!アルバートさんに食べてもらいたいんです!」
「……聞いてたから知ってる」
「だったら、」
「聞いたか今の!」
「『聞いたから知ってる』!見せつけてくれるぜくそう!」
「一緒に暮らしてんだとよ、うらやましい!」
「あれが食事をまずくしそうだ」
アルバートさんは、常連さんたちに苛立ちのこもった視線を向けた。
「おい、お前ら。あまり騒ぐと追い出すぞ」
店主兼コックのブライトンさんが、三人に睨みをきかす。
とたんに常連さんたちは静かになった。彼らは昔ブライトンさんにお世話になったらしく、頭が上がらないらしい。
「アルバートさん、やっとお客さんとして来てくれたんだ。サービスするからゆっくりしてってくれ」
アルバートさんはたまにわたしを迎えに来てくれるから、ブライトンさんとも顔見知りだ。
アルバートさんは、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
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