▼ "We go way back."
幼なじみと、同じ大学に進学した。
彼女の両親は俺に絶大なる信頼を寄せているので、同じアパートに暮らしてほしいと頼まれた。
ちょうど隣同士の部屋が空いており、俺は201号室、彼女は202号室に入居した。
ボロアパートではあったが俺たちはそこから大学に通った。
幼なじみの清香(きよか)は、あまり目立つタイプではないが、見た目は悪くなく、お人好しな一面もあるため、小中高とそれなりにもてていた。
だが、『清香は雅史(まさふみ)とできている』という暗黙の了解のようなものがあり、田舎でほとんど持ち上がりのメンバーだったこともあって清香が誰かと付き合うことはなかった。
もちろん雅史とは俺のことだ。
実家が隣同士で、生まれた時から一緒だった俺と清香。
実際には付き合っていないのだが、はっきりと否定をすることはなかった。
理由はふたつ。
ひとつは、清香はああ見えてかなりのドジで、危なっかしい彼女には、がさつなクラスメイト達では付き合いきれないだろうから。
『まーくん、ころんだ……』
そう言って母親でなく俺のところに泣きついてくることもしょっちゅうで、俺は何度も清香の手当てをしてやった。
皿を割ったり、財布を落としたり。彼女のだめなところを知ったら男たちは呆れていただろう。それがばれないように、清香に張り付いて守っていたのだ。
清香のことは、両親の次によく知っている、と思っていたから。
もうひとつの理由は、言うまでもない。
たかをくくっていたわけではないが、いずれは付き合うことになるんだろうと思っていた。
互いの両親もそんな期待をしているのがわかっていたし、清香も同じように感じていたのではないかと思う。
高校一年の夏、数ヵ月だけ、清香ではない女の子と付き合った。
最低だと言われるかもしれないが、簡単に言うと『ただやりたかった』のだ。割と軽い女の子で、むこうから告白されたから付き合った。
正直、清香と付き合うとなると、両親の目もありそんなことはできそうにないだろうと思ったのだ。
当然、その女の子には飽きられて振られた。
だから今、大学も同じ、アパートも隣同士。
絶好のチャンスだ。
――そう思っていたのに。
「きよちゃん、足開いて」
「宮下さんっ……」
「そう、いい子だね」
「あっ……」
――俺はどうして、好きな女が他の男に抱かれる声を、夜な夜な聴いているのだろう。
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