▼ はやせくんのための夢十夜
「おかえりなさい早瀬。ごはんにする?おふろにする?どっちも準備できてるよ」
玄関を開けると、エプロン姿で俺を出迎えてくれたのは――俺の幼なじみであり恋人でもある、日夏だった。
「えっ…!?日夏!?なん…何で俺の家……っええっっ!?」
わけがわからず混乱する俺に、日夏は首を傾げている。
だって日夏の家は俺の家のもうちょっとむこうなはずで、こんな、さも自分の家かのように出迎えてくれるなんてことはありえないはずで。
すると日夏は言った。
「どうしたの早瀬?夫婦なんだから同じ家なの当たり前でしょ?」
「ふ…ふうふ……!!??」
日夏の衝撃的な発言に飛び上がり、俺は思いきり背中をドアにぶつけた。激痛が走ったが、そんなことはどうでもいい。
「えっ!ええと、俺たち、その、いつのまに!?」
日夏に詰め寄ると、彼女は眉をひそめる。
「早瀬、忘れちゃったの?わたしたち1年前に結婚したじゃない。ほら、指輪」
日夏の左手薬指には、きらりと光るダイヤのリング。
そしてそれは、俺の指にもはまっていた。
――つまり、俺たちは、正真正銘、夫婦。
俺は状況の不自然さも忘れ、あっさりと納得した。
「ああ、そうだった。こんな大事なこと忘れるなんてどうかしてるな、俺」
「ほんと!もう、早瀬ってば、愛が足りないんじゃないっ?」
かわいらしく頬をふくらませる日夏を見ていると、自然と顔がにやけてしまう。
そして。
「なあ日夏、何が準備できてるんだっけ?」
「え?ごはんとおふろ…」
「もう一回さっきの聞いてくれる?」
俺は靴を脱ぎ、日夏との距離を詰めた。
「えっ??ええと……おかえりなさい早瀬、ごはんにする?おふろにする?」
「日夏」
「え????」
「俺は、日夏がいい」
きょとんとしている日夏の肩を掴み、引き寄せる。
「ちょっ、早…っ」
「ごはんよりもおふろよりも、日夏がいいんだ」
意味を察して顔を真っ赤にした日夏をしばらく見つめてから、俺はゆっくりと目を閉じた。
大好きな日夏との距離が、ゼロになる
―――前に、目が覚めた。
***
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