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「じゃあ啓太は?啓太」
ふいに自分の名前が聞こえて、俺は思考を中断し、そちらを振り返る。
美里たちは、他のグループと合流していたようだ。
女子が十数人かたまってキャーキャーと騒いでいる。
「あいつはだめだめ!女好きそうじゃん!スカしてるけど絶対チャラいよ!」
学科一口の悪い河合が俺のことをこき下ろしてくれている。
どうやら、学科の男子たちに評価をつけているらしかった。
異性の評価、なんてやつは、男たちもよくやるやつだからしかたない。
(ちなみに美里は、『大人っぽい高嶺の花』的存在らしい。)
だけど、美里のいる前で『女好き』だの『チャラい』だの言われるのはかなり困る。やめてほしい。
「美里、中学からの同級生としてはどう?あいつチャラいの?」
「えーと、……普通?」
しかも美里に話を振るな。
美里の答えに俺は軽く落ち込んだ。
「あははっ!つまり美里の視界には入ってなかったんだね、啓太は!」
河合の相槌に、さらに傷つく。
「おいコラ女子!ひとのこと好き勝手言ってんじゃねえぞ!?」
傷ついた心をごまかすように、俺は女子組に抗議の叫びをぶつける。
「うるさいなあ!女子の話に入ってくんじゃないよ、啓太!」
「じゃあ俺の話をすんな、アホ!」
そこから、グループはさらに大きくなって、男女入り混じったが、結局俺はその日、美里と会話を交わすことはなかった。
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