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彼は、次第に私への恋心を隠さなくなっていった。
私は元々隠してなどいなかったから、自然と二人の距離は縮まった。
誰かが死んだ時の話の代わりに、愛の言葉を交わすようになった。
そしてある日、彼が言った。
私が欲しいと。
私は、彼のその言葉を待っていた。
私は、彼の手をひいて屋根裏部屋へ上がった。
そこで、大好きな人たちの「石」を見せて、これまでのことを全て話した。
私が、彼を「欲しい」と思っていて、今にも「願って」しまいそうだということも。
彼は石を握って目を閉じた。
自分には何も感じられない、と言った。
このとき初めて、石が私以外の者には何も与えない存在なのだと知った。
彼は私に、病院へ行こうと言った。
私の罪を軽くしようとしたのだろう。
だが私は大好きな人たちを手にかけたわけではない。「願った」だけだ。
それに、今ここで、彼に、そんな不粋なことを言ってほしくはなかった。
私は、黙って首を振り、彼を見つめた。
彼も何も言わなくなった。
私は、彼に口づけ、彼のシャツのボタンを外していった。
彼が、まだボタンを外しきっていない私の手を掴んだ。
口づけをやめないまま、私と彼は床に倒れていった。
何度、「欲しい」と願いそうになった瞬間があったか知れない。
幸せと快楽と、苦しみ。
全てを、永遠に感じていたかった。
だけど、私が欲しいのは、彼の全てなのだ。
過去、現在だけでなく、未来も。
心臓の音まで、欲しいのだ。
「願って」しまったら、彼の心臓は止まってしまうし、未来も訪れない。
だけど、彼を完全に私のものにするには、「願う」しかない。
この残酷な気持ちさえ、石に閉じ込めてしまいたかった。
朦朧とした意識の中で、これまで手に入れた石たちが、色を失っていくのを見た。
そして、石に閉じ込められていたものが、全てひとつになって、私にふりそそぐのを感じた。
目が覚めると、石は全て、ただの石になっていた。
もはや、私に残されたものは、彼だけだった。
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