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母は病床、父は酒浸り、という家族の中で、私は典型的な『気の毒な娘さん』として生きてきた。
とはいえ私は、自分を可哀相だと思ったことなど特になかった。
家族なんて、何かしら問題を抱えているものだ。それが私の家族はたまたま、『病気』と『酒』だっただけで。
けれど、高校の卒業式の翌日、母が死んだ。
悲しんでいる私を、父は無表情で家から追い出した。
母が、私の進学資金として貯めてくれていたお金も、奪われた。
父は、私と母が邪魔だった。
早く母が死ねばいいと思っているのは知っていた。
お金を手に入れて、愛人と暮らすつもりだったということも。
だけど、現実にそんな目に遭わされてしまうと、さすがにショックだった。
私はまず、合格していた大学への入学を、取消してもらった。
そして、所持金300円で、三日間、街をふらふらと歩き回った。
どうしていいのかわからないし、この現実に頭がついていかない。
三日目の夕暮れ時、お腹がすいたどころではない状態で、私はよろけながら商店街の裏通りへ足を踏み入れた。
父が最後に言った言葉を思い出したからだ。
「体でも売りゃ、一人で生きていけるだろ」
そういう店はどこにあるのだろう。
それらしい看板を探して歩いていると、雨が降ってきた。
夕立かと思ったのに、雨はどんどん強くなり、土砂降りになった。
さすがにもう立っていられなくて、私は目の前にある小さな喫茶店の軒下に、崩れるように座り込んだ。
初めて、自分のことを『可哀相だ』と思った。
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