▼
一月後の夜。
くらい空に花火があがった。
きっと、王子さまの結婚式。
王子さまは、まだあんなふうに思っているんだろうか。
だれも好きになれないなんて。
……わたしをお嫁さんにしたいって。
するとそのとき。
「うさぎのお嬢さん。魔法をかけてあげようか?」
しわがれ声にふりかえると、ふしぎな色のフードをかぶったおばあさんがにやにやと笑っていた。
あなたはだあれ?どうしてわたしに話しかけているの?
「あたしは魔女さ。魔女だからうさぎとも話せるんだよ。うさぎのお嬢さん、お城の王子さまのお嫁さんになりたいんだね?」
わたし、そんなこといちども言っていないわ。それにわたしは、うさぎだもの。
「だけど、王子さまにもういちど、会いたいんだろう?話がしたいんだね?そう、うさぎのままじゃ話もできないし、お嫁さんにもなれないよ」
話はしたいわ。……ほんとは、少しだけ、お嫁さんにも、なりたいけれど。
「だったらあたしが魔法をかけてあげよう。人間になる魔法だよ」
そんなことができるの?
「もちろんさ、魔女だからね。お嬢さんは真夜中までにお城に着いて、王子さまに会わなくちゃいけない。間に合えば人間として一生暮らしていける。つまりお嫁さんになれるね。ただし間に合わなかったら、魔法はとけるよ。そして王子さまのことも忘れる」
かんたんだわ。うさぎのあしははやいもの。
「人間は、そんなにぴょんぴょんと走れないんだよ?間に合うかね?」
………そうなの?
わたしは少しだけためらったけれど、魔女さんと話していたら、王子さまに会いたくて会いたくて、しかたがなくなってしまった。
いいえ、絶対に真夜中までにお城にいくわ。わたしを人間にしてちょうだい。
「そうかね、じゃあ目をつぶっておいで」
目をつぶると、きらっとなにかが光ったかんじがして、いっしゅん意識がなくなった。
「もういいよ」と言われて目をあけると、目のまえには魔女さんが出した鏡があって、そこにはみしらぬ女の子がうつっていた。
わたしがくびをかしげると、女の子もかしげる。
「これ、わたしなの?」
「そうだよ、うさぎのお嬢さん。かわいらしい女の子になったねえ」
わたしが自分をみおろすと、まっしろなドレスをきていた。
「人間のお嫁さんは、真っ白なドレスを着るんだよ。お嬢さんの毛の色だね」
「すごくきれい!ありがとう!」
「さあ、早くお行き。道はわかるね?」
「ええ、魔女さん、ありがとう!」
背中をとんと押され、わたしは走り出した。
prev / next
(2/5)