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清香は、苛立った表情で髪をかきあげた。
「理解されたいなんて思ってない。知ってほしいとも思ってない」
「じゃあなんで今、俺と、」
「だってまーくんは特別だから」
「……」
「今はもう好きな人じゃないけど、特別だから」
「幼なじみだから?」
「大切な幼なじみだよ、これからも」
「同情、してるから?」
「同情はしてないよ、自分のためだもん」
言葉をかわすごとに、清香の眼差しは穏やかになっていく。
宮下の微笑みを思い出した。
清香は、隣に座るようにと俺を手招きした。
「まーくんの初めては、私だと思ってたんだ」
清香が、俺のジャケットを脱がす。
「…………」
「若林さん、だっけ?ホテルでしたんでしょう?」
「それは……、」
「わかってるよ。別に、今はどっちでもいいし」
じゃあどうして、という疑問には、すぐ答えが出た。
「あのときの私を、満たしてほしいの」
「あのときの、清香……?」
「まーくんはこれで、あきらめがつくでしょう?だから来たんでしょう?
私は、あのときの私が満たされるから、したいの。あのときの私が、まーくんとしたいの」
清香の瞳はあまりにも澄んでいて、その意味がわからなかった。
濁った言葉を聞かされている気がするのに。
「わからなくてもいいよ」
清香の細い指が、頬に触れる。
視線を落とすと、透き通るように白い太ももが目に入り、理性が削り取られていく。
部屋着にホットパンツなんてはいている姿を、俺は見たことがなかった。いつも、宮下が触れている、清香の身体。
「私、上手になったから、若林さんのときより、気持ちいいと思うよ」
「……知ってる。壁、薄いから。聞いてた。押し入れで」
白状すると、清香は笑った。
俺のよく知る笑顔だった。
「まーくんは、ずっと特別だよ」
清香の手が、俺の手首を掴み、シャツの下へと誘導する。
下着を付けていなかったから、指先が直接、清香の胸に触れる。
はあ、と清香は息を漏らした。
始めていいよ、という、合図のようで――それ以前にもう俺は、これ以上は1秒も待てなかった。
清香を抱きながら俺は、清香の両親を説得する言葉を、ひたすらに思い浮かべていた。
『俺、宮下さんと話したことあるんだけどさ、しっかりしてて、清香のこと、ほんとに理解してくれてるよ』
清香の舌を貪りながら、清香の身体を指先で確かめる。
『だから俺も、安心して任せられるって思ったんだ』
自らの汗と清香の汗、部屋の湿気で、空気がどんどん重くなっていく。
清香の声も、身体も、じわりと濡れていくようだった。
『大丈夫、おばちゃん、俺が保証するから』
脚を開かせて、その中心に指で触れると、ぬるり、と熱が絡みついた。
どうして、こんなになっているんだろう。俺は宮下じゃないのに。
『いやいや、おばちゃんがそう思ってくれるのは嬉しいけどさ、俺も清香もずっと一緒に居すぎて、きょうだいみたいなもんだからさ』
触れれば触れるほど溢れるそれに、俺の身体がますます熱くなっていく。心臓は、冷たくなっていく気がするのに。
『もちろん、これからも清香は大事な幼なじみだし』
堪えきれずに清香の中に押し入っても、煽るように、清香の身体が卑猥な音をたてる。
『なんかあったら俺が殴り込みに行くから、おばちゃん、安心してよ』
何度も聴いた声と、初めて見る、感じる、触れる清香。
気が狂ったように腰を振り――全てが終わった。
気づいたら、泣いていた。
清香は満足げに微笑んでいた。
まるで、幸せな『初めて』を終えた後のように。
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