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宮下は、毎晩のように清香の部屋に来て、清香を抱いた。
日を追うごとに清香が大胆になっていくのは、声だけでもわかった。
宮下に、様々なことを教え込まれているのだろう。
そして、清香が宮下に夢中になっているのは明らかだった。
抱かれているときだけではないのだろうが、壁越しに聞こえる声だけで、俺にはすぐわかった。
俺には向けられたことのない類の好意。
いつのまに、そんな女になった?
ずっとそばにいたのに、変わらなかったのに。
俺の目の届かないところで、清香が知らない女になっていく。
壁越しでは、何もできない。
思い知らされるだけだ。
はじめから気づいていたのに、やめられない。
そんな風に、清香が宮下にベタ惚れだからなのか、当然主導権は宮下にあり、宮下が清香にどこまでの想いを抱いているのかは全くわからなかった。
下手をすれば、清香を抱いた後、別の女のところへ行き、全く同じことをしていても不思議ではないような。
騙されているのではないか、という疑いは、妬みと願望からくるものだろうか。
『みかん送っといたからきよちゃんと分けな』
数日前、母親からメールが来ていた。
清香も大好物の、祖母宅でとれたみかん。
今日、届いた。
『んー、いらないかな』
そっけなく突き返される、そんな映像が頭に浮かんで――大量のみかんは一人で片付けることにした。
俺は清香が『怖い』のか。
そう感じる自分を自覚するのと同時に、
それでも清香を守らないと、清香を宮下から取り戻さないと、清香の目を醒まさせないと――
身勝手な使命感が膨らんでいった。
使命感は、おそらく独占欲が姿を変えたもの。
清香に近づきたくないのに、清香を取り戻したい。
夜な夜な、押し入れで清香の情事に聞き耳をたてておきながら、終わればわざわざ押し入れから出て、昔のアルバムを見ながら、自慰行為に耽った。
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